必聴傾聴盤紹介~「J.S.バッハ:音楽でたどる生涯 vol.1~初期カンタータ集 アルンシュタット~ミュールハウゼン/ポール・アグニュー&レザール・フロリサン」

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『J.S.バッハ:音楽でたどる生涯 vol.1~初期カンタータ集 アルンシュタット~ミュールハウゼン』
レザール・フロリサン
ポール・アグニュー(指揮)
バンジャマン・アラール(オルガン/聖ヴァースト教会、ベテューヌ)

harmonia mundi
CD HAF8905364 輸入盤 HMM902317 2024年4月上旬発売予定

収録情報

・J.S. バッハ:カンタータ《キリストは死の縄目につながれたり》BWV 4
・J.S. バッハ:コラール《キリストは死の縄目につながれたり》 BWV 718
・J.クーナウ(1660-1722):カンタータ《キリストは死の縄目につながれたり》
・J.S. バッハ:コラール《ああ主よ、哀れなる罪人われを》 BWV 742
・J.S. バッハ:カンタータ《主よ、われ汝をあおぎ望む》 BWV 150
・J.S. バッハ:コラール《イエスよ、わが命の命》 BWV 1107
・J.S. バッハ:カンタータ《神の時はいとよき時》 BWV 106

ポール・アグニュー(指揮)
レザール・フロリサン
ミリアン・アラン(ソプラノ)
マールテン・エンゲルティエス(カウンターテナー)
トーマス・ホッブス(テノール)
エドワルト・グリント(バス)
タミ・トロマン、ジュリエット・ルメリャク(ヴァイオリン)
ソフィー・ド・バルドンネシュ、ミリアム・ビュロ(ヴィオラ)
フェリクス・クネヒト(チェロ、通奏低音)
ジュリアン・レオナール、ジョシュ・チーザム(ヴィオラ・ダ・ガンバ)
ユーゴ・アブラアム(コントラバス、通奏低音)
ティアム・グダルツィ、アナイス・ラマジュ(リコーダー)
アナイス・ラマジュ(バスーン)
アドリアン・マビル、ブノワ・テンテュリエ(コルネット、クーナウのみ)
トーマス・ダンフォード(テオルボ)
マリー・ファン・ライン(オルガン、通奏低音)
バンジャマン・アラール(ベテューヌ、サン・ヴァースト教会/アルプ・シュニットガーに基づくフライターク=トリコトー・オルガン 2001年製作)

録音:2022年5月、フィルハーモニー・ド・パリ

★ HMF 注目の新シリーズが始まりました!ポール・アグニューとレ・ザール・フロリサンによる、J.S. バッハのシリーズです。J.S. バッハが生きた時代と都市を通して、その創作の遍歴をたどるというもの。第1 弾は、北ドイツの教会音楽の伝統に忠実でありながら、すでに強烈なオリジナリティを発揮していた若き巨匠に焦点を当てます。レザール・フロリサンの声楽のやわらかな美しさはもちろんのこと、シンフォニアなど器楽曲での美しくも胸をうつ格調高き音楽は必聴。声楽と器楽のアンサンブルも、よい意味で古の薫り高き美しさ。また新しいカンタータ名演シリーズの誕生に心躍ります。
★バッハがカンタータBWV 106 を書いたのが1707/08 年、カンタータBWV 4 を書いたのは1708 年ないしそれ以前、そしてBWV 150 を書いたのも1708 年以前とされています。つまり3 作品ともバッハのアルンシュタット時代(1703/4-1707)あるいはミュールハウゼン時代(1707-1708 年末)ということで、バッハのきわめて初期の段階の作品。同じテキストをもつクーナウの作品や、関連のあるコラール(同じくバッハの鍵盤作品を年代順におって録音するプロジェクトを進行中のアラールが演奏)も収録されているのも注目です。ブックレットにはアルンシュタットやミュールハウゼンの写真も掲載されており、実に興味深い内容です。
★ポール・アグニューの言葉(ブックレットより)~ヨハン・クーナウのカンタータ『キリストは死の縄目につながれたりChrist lag in Todesbanden』を取り上げたのは、バッハ自身の作品に何らかの文脈を与えることを期待してのことだ。この作品を書いた1693 年当時、クーナウはすでにライプツィヒのトーマス教会でオルガニストを務めており、1701 年にシェレが亡くなるとカントールに就任し、1722 年のクーナウの死後はバッハ自身が後任となった。同じテキストである「Christ lag in Todes Banden」の2 つの曲を聴き比べたくなったのは言うまでもない。バッハは幼い頃からクーナウのオルガン作品を知っていただろうし、彼らは1716 年(それ以前でなければ)にハレで出会い、新しいオルガンを一緒に検討した。冒頭のソナタは墓の陰鬱な雰囲気の中で始まり、第2 楽章では器楽アンサンブルのエネルギッシュな伴奏の中でコラールが歌われるが、第4 楽章からクーナウはコラールの旋律を捨て、器楽がアンサンブルの声部を巡り、最終楽章では擬似フーガ的な楽章で旋律に戻るという、歌のようなセッティングになっている。興味深いことに、クーナウもバッハと同様、作品に「SDG」(Soli Deo Gloria)と署名している。1723 年のライプツィヒでの最初のクリスマスに演奏されたマニフィカトや、1724 年の最初の復活祭に演奏された聖ヨハネ受難曲は言うに及ばず、バッハの高度に練り上げられ、発展した成熟した作品を、クーナウの古風で比較的単純な作風に慣れていた聴衆はどう思っただろうか。しかし、私たちは先を急ぎすぎている。バッハはまだ成熟していない。アルンシュタットに到着したときは18 歳、ミュールハウゼンを離れてワイマールに向かったときはまだ23歳だった。

キングインターナショナル

 ウィリアム・クリスティが1979年に創設したレザール・フロリサンは、40年以上、古楽演奏を牽引し続ける古楽界を代表する存在です。リュリ、シャルパンティエ、ラモーなどのフランス・バロック音楽の復興を中心としながら、バッハやヘンデルの名曲も数多く録音してきました。近年、レザール・フロリサンに参加していた名歌手ポール・アグニューが指揮も担当するようになり、クリスティとアグニューの二頭体制で録音が行われています。グループ初となるこのバッハのカンタータ録音もポール・アグニューの指揮の下、行われました。「音楽でたどる生涯Vol.1」とシリーズ名が付けられているように、時系列的に作品を選びながら、バッハの生涯をその音楽でたどるという内容のようです。第1弾となるこのアルバムには、いわゆる初期カンタータ3曲が選曲されています。
 カンタータ第4番BWV4は初期の1708年(または1707年とも)に書かれたとされ、バッハのカンタータの中でも特によく知られた作品の一つです。ルターのコラールを全編で使用しているいわゆるコラール・カンタータで、第5曲の「生と死の戦い」を中心に、シンメトリーを構成する形になっています。20代前半の若きバッハの野心あふれる傑作です。
 カンタータ第150番BWV150は、現存するバッハの最初期のカンタータとされている作品です。終曲のシャコンヌの主題は、後にブラームスが交響曲第4番で借用したことで有名な作品となっています。
 カンタータ第106番BWV106は、第4番と並んでバッハのカンタータの中でも特に人気のある作品で、リコーダーとヴィオラ・ダ・ガンバが登場する作品で、「Actus Tragicus 哀悼行事」と呼ばれています(一説には、リコーダーとヴィオラ・ダ・ガンバが死を象徴していると言われています)。追悼用の作品ながら、リコーダーとヴィオラ・ダ・ガンバの温かみのある音が活かされたおだやかなシンフォニアからはじまり、終曲も明るいアーメン・フーガで締めくくられます。
 3曲ともに、若きバッハのバイタリティあふれる作品であり、その当時のバッハの作曲技術を結集させたもので、後の複雑にフーガなどは用いられていないものの、この時代の作品にだけ感じられる若きバッハの野心は、聴き手の心を躍らせるものでしょう。私見ですが、こうした初期のカンタータの作曲に当たっては、ブクステフーデを中心とする北ドイツの作曲家たちの音楽様式である「スティルス・ファンタスティクス(幻想様式 Stylus Phantasticus)」の影響を強く受けているように思えます。特に第106番の部分的に切れ目のない音楽構成はその影響を物語っていると言えるでしょう。
 さて、このアルバムの特長は、この3曲の合間に、それぞれのカンタータのテキストと関わりあのあるオルガン・コラール3曲が挿入され、かつカンタータ第4番と同じルターのコラールを基としたヨハン・クーナウ(1660-1722)のカンタータも収録しています。クーナウは、ライプツィヒで1701年から死去する1722年までトーマス・カントルを務めた人物で、クーナウのトーマス・カントルの後任がバッハなのです。鍵盤音楽を中心に作品を残し、バッハ先輩もクーナウの作品から多くのことを学んだとされています。このカンタータはバッハの作品と同様、ルターのコラールの旋律をほぼそのまま作品に生かしています。アリアこそ、若いバッハの作品と比べてもかなりシンプルに作られていますが、イタリア音楽の影響が顕著な器楽の使用が巧みで、冒頭のソナタに続くコラールは、戦闘的とも言えるほど活発に動く器楽をバックに声楽がシンプルなコラールを歌います。終曲はシンプルなフーガ風の音楽で締めくくられます。演奏にはコルネットも加わり、活発な器楽を強調したかなり豪奢な響きになっています。
 ポール・アグニューとレザール・フロリサンは、声楽は各パート一人のソリスト4人、器楽陣も基本的に各パート一人といういわゆるOVPP(OneVoicePerPart)の小編成が取られています。ソリストの4人が卓越した歌唱技術を擁しているので、機動力抜群で、大変劇的なテンポの変化が取られています。第4番の強烈な推進力、第106番の温かみなどこの編成ならではの利点が活かされているように思えます。自身が優れた歌手であり、バッハの受難曲でのエヴァンゲリストを歌うなどバッハ作品の歌唱に関しても一家言あるポール・アグニューの指揮は、歌手たちの発音にまで徹底されているようで、テキストの表現のためにかなり強めに子音を発声し、音楽にメリハリを付けています。子音の発音も音楽になっているのですからさすがです。OVPPによるバッハ演奏は、大流行した一時期に比べれば、現在は落ち着いているように思えますが、こうした優れた演奏を聴くと、この小編成でのバッハ演奏の良さを再認識できるでしょう。今後のシリーズへも大きな期待を抱かせるレザール・フロリサンによるバッハ演奏をお楽しみください。
 ちなみに、3曲のオルガン・コラールは、収録のカンタータと関わりのあるもので、harmonia mundiレーベルでバッハの鍵盤作品全集を進めるバンジャマン・アラールの音源(Vol.2 KKC6221/4)が使用されています。(須田)

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