必聴傾聴盤紹介~「テレマン:「イーノ」&後期作品集/ベルリン古楽アカデミー」

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『テレマン:「イーノ」&後期作品集』
ベルリン古楽アカデミー(Akamus)
クリスティーナ・ランツマハー(ソプラノ)

コンサータマスター:ベルンハルト・フォルク
PENTATONE
CD PTC5187072 輸入盤

収録情報

テレマン:「イーノ」&後期作品集
①序曲(管弦楽組曲)ニ長調 TWV55:D21~2つのホルン、2 つのオーボエ、弦楽と通奏低音のための
②劇的カンタータ「イーノ」TVWV20:41
③ディヴェルティメント 変ホ長調 TWV50:21~2つのホルン、2 つのフルート、弦楽と通奏低音のための
④シンフォニア・メロディカ ハ長調 TWV50:2~2つのオーボエ、弦楽と通奏低音のための

クリスティーナ・ランツハマー(ソプラノ)
ベルリン古楽アカデミー(コンサートマスター:ベルンハルト・フォルク)

セッション録音:2022年6月10-13日/ニコデモ教会(ベルリン)

★ベルリン古楽アカデミー(AKAMUS)のPENTATONE 最新盤はテレマンの作品集です。harmonia mundi やCAPRICCIO などレーベルに数多くのテレマン録音を行ってきたベルリン古楽アカデミー。その録音プログラムは、管弦楽作品から協奏曲、声楽曲まで多岐に渡り、すべてのアルバムでテレマンの作品の魅力をクラシック・ファンに伝えてきました。
★PENTATONEレーベルでは、21世紀になって復活上演されたという歌劇「ミリヴァイス」(PTC-5186842)をライヴ録音していますが、このアルバムでは、晩年の作品を集めています。
★プログラムのメインとなるのは、ドイツ語によるソプラノ独唱のための劇的カンタータ「イーノ」。1765 年、84 歳のテレマンが、ギリシャ神話の登場人物「イーノー」の物語を題材に、一気に書き上げたという演奏時間が30 分を超える大作です。テレマンの声楽作品の中では、例外的に録音の多く、名歌手たちが名唱を残していますが、今回はドイツを中心に古楽、オペラ、リートに大活躍中のソプラノ、クリスティーナ・ランツハマーが、ベルリン古楽アカデミーの鋭い演奏をバックに、変化に富んだこの名作を表情豊かに歌い上げています。
★また「イーノ」の他に、3曲の管弦楽作品を収録。1765 年に作曲された「序曲 ニ長調」TWV55:D21は、ヘッセン=ダルムシュタット方伯ルートヴィヒ8世のために書かれた管弦楽組曲で、狩猟好きのルートヴィヒ8 世のためとあってか、ホルンとオーボエが活躍する楽曲となっています。フランス様式の序曲から始まる典型的な組曲の形式ながら、第4楽章の鐘を模した旋律(ダルムシュタットの宮廷の鐘の音を模倣したとされています)が印象的な<カリヨン>など工夫が凝らされた楽章構成が楽しめます。「ディヴェルティメント 変ホ長調」TWV50:21 と「シンフォニア・メロディカ ハ長調」TWV50:2 は、対照的にイタリア様式の協奏曲形式が中心を占める構成となっています。躍動感ある管楽器の活躍と各楽章で異なる趣向が凝らされた構成が聴きどころです。テレマンのベルリン古楽アカデミーの切れ味鋭い生き生きとした演奏は、作品の個性だけでなく、各楽章の個性まで際立たせ、テレマンの作品の魅力を存分に教えてくれます。フルート、オーボエ、ホルンといった管楽器の妙技も注目点でしょう。
★最晩年まで旺盛な作曲意欲を持ち続けた天才作曲家テレマンの円熟の作曲技法を堪能できるすばらしいアルバムです。
※輸入盤のため日本語解説は付属しておりません。
キングインターナショナル

 1980年代からテレマンの主に管弦楽作品を数多く録音し、その魅力を伝えてきたベルリン古楽アカデミー。このアルバムでは、テレマンの晩年にスポットを当て、選曲しています。
 アルバムの中心となるのは、ソプラノ独唱のための劇的カンタータ「イーノ」。演奏時間にして、35分を超える大作です。ドイツ語の語感を生かしたレチタティーヴォ、前半と後半に枠組みのように位置づけられるダ・カーポ・アリア、海の神ネプトゥヌスの世界を象徴するフラウト・トラヴェルソとホルンの使用など、バロック音楽の要素の中に、明らかにそこから一歩踏み出した表現も聴くことができます。作曲家人生の集大成のように持てる作曲技術を注ぎ込みながら、そこからさらに進化を遂げようとする老年のテレマンの衰えることのないヴァイタリティを「イーノ」からは感じることができます。膨大な数の作品を残したテレマンの作品の中では、声楽曲の録音は増えてきているとはいえまだまだ未発掘の部分が多いのですが、その中でも傑出した作品として知られていた「イーノ」に限っては複数の録音が存在し、往年の名ソプラノ、グンドゥラ・ヤノヴィッツの1960年代の録音や、ロベルタ・アレクサンダーとアーノンクール&コンツェントゥス・ムジクス、バルバラ・シュリックとラインハエウロ・ゲーベル&ムジカ・アンティクヮ・ケルン、21世紀になってからは、アンナ・マリア・ラビンとミヒャエル・シュナイダー&ラ・スタジョーネ・フランクフルトと、それぞれすばらしい歌手による名演を聴き比べることができます。ベルリン古楽アカデミーは、この新録音で、古楽にリートにオペラにと幅広く活躍しているドイツのソプラノ、クリスティーナ・ランツハマーを迎えて録音しています。ランツハマーの歌唱は、ドイツ語の発音やアクセントを音楽に乗せ、テレマンがこの作品に込めた劇的な要素を明確にします。ベルリン古楽アカデミーの器楽陣も激しい主張を加えながら、歌詞内容を象徴する雰囲気を色付けします。歌と器楽が一体になって音楽が盛り上がっていく様は圧巻です。ランツハマーの名歌唱にベルリン古楽アカデミーの凄腕たちの表現力が加わったこの録音は、名演ひしめく「イーノ」録音の中でも最高峰に位置するものと言えるでしょう。
 このアルバムには、「イーノ」を囲むようにして、弦楽合奏と通奏低音に、オーボエやホルンが加わる編成規模の大きな合奏曲が3曲収録されています。特にさまざまな趣向が凝らされた冒頭の序曲(管弦楽組曲)は、リュリから始まったバロック時代の序曲の歴史が一つの頂点を迎えた作品といっても過言ではありません。「イーノ」同様、老いてもなお衰えぬテレマンの創作意欲には脱帽です。ベルリン古楽アカデミーの演奏のすごさもテレマンの音楽の面白さを聴き手に明確に伝えてくれています。
 天才テレマンが晩年に至っても圧倒的な創作意欲を誇り、最先端の音楽を残していたことを、こうしたすばらしい演奏で知ることができるのは感動的です。まだまだもっともっと知られて良いテレマンの魅力を体験してください!(須田)

ちなみに

PENTATONEレーベルでのベルリン古楽アカデミーのCDのカバーデザインは、名画など既存の画像イメージをあえて使用せず、専任のデザイナーが毎回、収録作品に合わせた幾何学的でありながら象徴的でシンプルなデザインを使用しています。今回のアルバムでは、崖と海、昇るまた沈む太陽がシンプルな色彩と形態で示されていますが、これはまさに断崖から身を投ずる「イーノ」の歌詞を象徴するものでしょう。PENTATONEレーベルにおけるベルリン古楽アカデミーのアルバムはジャケットにも注目です。

ベルリン古楽アカデミーの他のCDも大好評発売中!
『モーツァルト:交響曲第35番「ハフナー」、交響曲第31番「パリ」、オーボエ協奏曲』
『テレマン:ヴィオラ協奏曲集』

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