追悼 小澤征爾(1935.09.01~2024.02.06)

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©Shintaro Shiratori
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追悼・小澤征爾(1935.09.01~2024.02.06)

2024年2月6日 

小澤征爾氏の訃報に接し、心よりお悔やみを申し上げますとともに、山野楽器は今後も小澤氏の名演奏をご紹介し続けることで、生前の偉大な功績を称えたいと思います。

ここ数年のご様子から、ああ、ついにこの日が来たか…と感じられた方は多いはず。2024年2月6日、東京を覆った雪の翌日、穏やかな冬の日に亡くなられた小澤征爾さん。その独特の経歴と多くの功績は各所で多く語られると思いますので、ここでは小澤さん(と呼ばせてください)に関する筆者の思い出を少し語らせていただき、追悼記事といたします。

2023セイジ・オザワ 松本フェスティバルでジョン・ウィリアムズ氏と。©Michiharu Okubo/2023OMF.

筆者が小澤さんの音楽を聴き始めたのは1970年代後半。当時日本は、カラヤン&ベルリン・フィル、ベーム&ウィーン・フィルという、対照的な個性の2大名門オーケストラの人気絶頂の時期でしたが、小澤さんはそのカラヤンの弟子として、またアメリカの巨匠バーンスタインの助手を務めるなど世界で活躍されていました。そんな時期に、現在は休館中でかつてのメッカ、日比谷公会堂における1980年新日本フィルとの「第九」を体験。冬なのに汗だくの小澤さん、新日本フィルのティンパニの迫力、松脂飛び散る弦楽器群の熱い響きの洗礼は今も忘れられません。この強烈な体験が小澤さんとの出会いでした。

1974年に録音されたロンドンのニュー・フィルハーモニア管弦楽団(現・フィルハーモニア管弦楽団)を指揮したベートーヴェン:第九。このレコードは2枚組で、最後の面にリハーサル風景が収録されており、小澤さんの、日本人にはとてもわかりやすい英語での稽古ぶりと合唱団の笑い声がとても印象的でした。(このリハーサル入りで再発売されないでしょうか。)
小澤さんの第九の演奏は当時から結構時代を先取りしていて、引き締まったテンポと軽快なリズム、休符の独特な間と内声部の強調による音楽の厚みの豊かな表現には引き込まれました。現代でも聴衆を唸らせるに十分な演奏だと思います。

ベートーヴェン:
交響曲第9番<合唱>
小澤征爾 指揮

サイトウ・キネン・オーケストラ
アンネ・シュヴァーネヴィルムス(ソプラノ)
バーバラ・ディヴァー(アルト)
ポール・グローヴズ(テノール)
フランツ・ハヴラタ(バス)
東京オペラ・シンガーズ
録音:2002年9月松本(ライヴ)

UCCD-51002

余談ですが第九といえば、1980年代には東京・目白の東京カテドラル聖マリア大聖堂でも、雪の降る日に新日本フィルにより演奏されました。第3楽章の途中で停電があったものの、ロウソクの明かりでその楽章が最後まで演奏され、とても神秘的な時間でした。その後ゆっくりと水銀灯が灯っていく中、雰囲気満点で一生忘れられない演奏会となりました。

小澤征爾とサイトウ・キネン・オーケストラ

小澤さんといえば、サイトウ・キネン・オーケストラを外すわけにはいかないでしょう。1984年に齋藤秀雄没後10年を記念し、教え子を中心に結成され、当初は「齋藤秀雄メモリアルオーケストラ」という名前で、東京文化会館で小澤さんと秋山和慶氏の指揮で最初の演奏会がありました。
この演奏会で演奏されたバッハのシャコンヌは、その後のどの演奏よりも気持ちの入った感動的な演奏ではないでしょうか。実際、終演後に小澤さんは「先生に聞かせたかった…」と涙声でした。

齊藤秀雄メモリアルコンサート 1984
①モーツァルト:ディヴェルティメント ニ長調 K.136
②シューマン:交響曲第3番変ホ長調 作品97『ライン』
③R.シュトラウス:交響詩『ドン・キホーテ』作品35
④J.S.バッハ:シャコンヌ(齋藤秀雄編)
⑤パガニーニ:常動曲 作品11

堤剛(チェロ③)今井信子(ヴィオラ③)
桐朋学園齋藤秀雄メモリアル・オーケストラ
秋山和慶(指揮①②)
小澤征爾(指揮③④⑤

録音:1984年9月18日 東京文化会館
FOCD-9068

その後サイトウ・キネン・オーケストラとして1987年から世界を回り評価を高め、フィリップスからCDデビューが発表された1990年、彼らの最初の録音「ブラームス:交響曲第4番」が発表された時の期待感、高揚感は今では想像もつかないほどの熱量でした。
実際、リリース後にすぐ売り切れ、銀座本店のクラシック・チャートをしばらく独走していました。
当時購入されたお客様からは、「凄いブラームスだねえ」「日本のオーケストラじゃないみたいだね」など絶賛の嵐で、それまでの日本のオーケストラの印象を一変させた1枚でした。
録音会場はカラヤンも好んだベルリンのイエス・キリスト教会。フィリップスのレコーディングスタッフによる、豊かな響きを見事に再現した名録音は今でも聴きごたえ満点です。

ブラームス:
交響曲第4番
ハンガリー舞曲第5番・第6番

小澤征爾 指揮

サイトウ・キネン・オーケストラ
録音:1989年9月 ベルリン、イエス・キリスト教会


UCCS-50229

2013年のサイトウ・キネン・フェスティバルで上演されたオペラ「こどもと魔法」で、何と2016年にグラミー賞のベスト・オペラ・レコーディング賞を受賞され、大変な話題になりました。山野楽器本店ではそれを記念してライブ録音時の公演写真や映像の展示に加え、実際に使用された衣装も展示した、「小澤征爾グラミー賞受賞記念≪こどもと魔法≫展」を開催しました。

ラヴェル:
歌劇《こどもと魔法》

小澤征爾 指揮
サイトウ・キネン・オーケストラ
SKF松本合唱団(合唱指揮:ピエール・ヴァレー、中村雅夫)
SKF松本児童合唱団(合唱指揮:佐原玲子)他
録音:2013年8月 松本(ライヴ)

UCCS-50377
2024年4月24日 再発売

本領発揮のレパートリー

小澤さんは、モーツァルトやベートーヴェンといった古典派よりも、ベルリオーズ、R・シュトラウス、メシアン、マーラーといった大編成の音楽にこそ、本領を発揮された指揮者だったように思います。これらは優秀な録音が残されています。

マーラー:交響曲第2番「復活」

小澤 征爾 指揮
サイトウ・キネン・オーケストラ

菅 英三子(ソプラノ)
ナタリー・シュトゥッツマン(コントラルト)
晋友会合唱団(関屋 晋:合唱指揮)


録音:2000年1月 東京文化会館(ライヴ)
SICC-40027/8(2CD)

ベルリオーズ:幻想交響曲 作品14

小澤征爾 指揮
サイトウ・キネン・オーケストラ

録音:2014年8月、9月 キッセイ文化ホール


UCCS-50210


ワーナー録音全集(25CD 輸入盤)
ワーナー・クラシックスから旧EMIとエラートに録音された、彼が指揮をした作品(協奏曲のバックを務めたものも含む)をすべて収録した記念ボックス

小澤征爾指揮
シカゴ交響楽団
パリ管弦楽団
日本フィルハーモニー管弦楽団
ボストン交響楽団
フランス国立管弦楽団
ロンドン交響楽団
ベルゲン・フィルハーモニー管弦楽団、他

2564-613951 
※輸入盤のため日本語解説は付属しておりません。

ドイツ・グラモフォン創立120周年スペシャル・ガラ・コンサート

2018年12月、クラシックの名門、ドイツ・グラモフォン創立120周年スペシャル・ガラ・コンサートがサントリーホールで開催され、会場でCD販売を行いました。終演後、お客様もいなくなり撤収作業をしている我々のもとに小澤さんがふらっといらっしゃり、「どうもありがとうございました」と頭を下げられたので、とても恐縮しました。お店にもご家族とよく来てくださいました。多く語られていることですが、その実直で気さくな、気取らないお人柄は多くの人を惹きつけますね。

ドイツ・グラモフォン創立120周年 
Special Gala Concert
①チャイコフスキー:歌劇《エフゲニー・オネーギン》~ポロネーズ
②チャイコフスキー:交響曲 第5番
③ベートーヴェン:ヴァイオリンと管弦楽のためのロマンス 第1番
④サン=サーンス:序奏とロンド・カプリチオーソ
ヴァイオリン独奏:アンネ=ゾフィー・ムター(③④)
サイトウ・キネン・オーケストラ
指揮:ディエゴ・マテウス(①-③)
指揮:小澤征爾(④)
録音:2018年12月 サントリーホール
UCCG-1850

世界のオザワ

齋藤先生に教わったことをポケットに入れて、世界でそれが通用するか少しずつポケットから出して実験しているんだよ、と茶目っ気たっぷりに語っていた小澤さん。今頃齋藤先生やお母様、カラヤン、バーンスタイン、ロストロポーヴィチらと再会されているのでしょうか。
地方のお寺などを回って演奏した、ロストロポーヴィチとのキャラバン演奏会も画期的でしたね。地域で普通に生活している人たちがふらっとやってきて、初めての生演奏に聴き入っている姿をテレビで拝見しましたが、忘れられない光景でした。

ドヴォルザーク:
チェロ協奏曲

ロココ風の主題による変奏曲

ムスティスラフ・ロストロポーヴィチ(チェロ)
小澤征爾 指揮 ボストン交響楽団
録音:1985年


WPCS-21056

映像に残された小澤征爾

映像作品も多く発売されています。
1985年製作のドキュメンタリー「OZAWA」は必見。ヨーヨー・マとの東洋人にクラシックができるのか、という論争や、若手指揮者への熱い指導、今は亡きルドルフ・ゼルキンやジェシー・ノーマンとの共演も見応え満点です。

ドキュメンタリー OZAWA
[演目]
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第2番
ドヴォルザーク:チェロ協奏曲
マーラー:交響曲第2番『復活』
バッハ(斎藤秀雄編曲):シャコンヌ(管弦楽版)他より
※演奏シーンはリハーサル風景や一部分になります。

[出演]
小澤征爾、ボストン交響楽団、ルドルフ・ゼルキン(ピアノ)、ヨーヨー・マ(チェロ)、ジェシー・ノーマン(メゾ・ソプラノ)、エディット・ワイエンス(ソプラノ)、十束尚宏(指揮)、 桐朋学園斎藤秀雄メモリアル・オーケストラ
[監督]デイヴィッド・メイスルズ、アルバート・メイスルズ
[制作]1985年
■字幕/約58分

SIXC-60

世界の主要オーケストラを指揮した名盤

チャイコフスキー:
 1.序曲「1812年」作品49
 2.スラヴ行進曲 作品31
 3.ポロネーズ(歌劇「エフゲニー・オネーギン」第3幕より)
 4.幻想曲「フランチェスカ・ダ・リミニ」作品32

小澤征爾
指揮
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1984年6月

WPCS-13229

R.シュトラウス:
1.ウィーン・フィルハーモニーのためのファンファーレ
2.アルプス交響曲 作品64
3.ヨハネ騎士修道会の荘重な入場


小澤征爾 指揮
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

録音:1996年3月 ウィーン

UCCS-50253

マーラー:
交響曲 第1番 ニ長調 《巨人》

(〈花の章〉付き)

小澤征爾 指揮
ボストン交響楽団

録音:1977年10月 ボストン、シンフォニー・ホール
※DSDマスターを元にしたHRカッティング
UCCS-50164

①モーツァルト:クラリネット協奏曲
②ベートーヴェン:交響曲第5番《運命》


リカルド・モラレス(クラリネット・ソロ)①
小澤征爾 指揮②
水戸室内管弦楽団

録音:2016年3月 水戸芸術館(ライヴ)


UCCD-1453

小澤さんへ

最後に小澤さんへ。
生前、朝早くから夜遅くまで、常に勉強されていた小澤さん。私たちはその成果である、残された数多くの名演奏をこれからも楽しみ、ご紹介してまいります。また、小澤さんの薫陶を受けた若い優秀な音楽家たちが今、世界へと次々に羽ばたき、クラシックファンの裾野を広げています。その道を切り開いた小澤さん。長い間、本当にお疲れ様でした。どうぞごゆっくりお休みください。
ありがとうございました。

(山野楽器 峯岡隆)

©Michiharu Okubo.

※文章中でご紹介している商品が品切れ・完売する可能性がございます。ご了承ください。

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