必聴傾聴盤紹介~「C.P.E.バッハ:6つのシンフォニア『ハンブルク交響曲』とファンタジア集/マルツィン・シヴィオントキエヴィチ」

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『C.P.E.バッハ:6つのシンフォニア『ハンブルク交響曲』とファンタジア集』
マルツィン・シヴィオントキエヴィチ(チェンバロ、フォルテピアノ、指揮)
アルテ・デイ・スオナトーリ

【BIS】
SACDハイブリッド BISSA-2459 輸入盤

収録情報

C.P.E.バッハ:6つのシンフォニア『ハンブルク交響曲』とファンタジア集
●シンフォニア第5 番 ロ短調 Wq.182-5(H.661)[ Ⅰ .アレグレット / Ⅱ .ラルゲット / Ⅲ .プレスト]*
●ファンタジア ハ短調~ソナタ ヘ短調 Wq.63-6(H.75)よりフィナーレ*
●シンフォニア第3 番 ハ長調 Wq.182-3(H.659)[ Ⅰ .アレグロ・アッサイ* / Ⅱ .アダージョ* † / Ⅲ .アレグレット] ●ファンタジア ヘ長調 Wq.59-5(H.279)† ●シンフォニア第2 番 変ロ長調 Wq.182-2(H.658)[ Ⅰ .アレグロ・ディ・モルト / Ⅱ . ポコ・アダージョ / Ⅲ .プレスト† ]
●シンフォニア第4 番 イ長調 Wq.182-4(H.660)
 [ Ⅰ .アレグロ・ディ・モルト / Ⅱ . ラルゴ・エド・イノチェンテメンテ / Ⅲ .アレグロ・アッサイ] †
●ファンタジア(即興)*
●シンフォニア第6 番 ホ長調 Wq.182-6(H.662)
 [ Ⅰ .アレグロ・ディ・モルト / Ⅱ . ポコ・アンダンテ / Ⅲ .アレグロ・スピリトゥオーソ] †
●ファンタジア ト短調 Wq.117-13(H.225)*
●シンフォニア第1 番 ト長調 Wq.182-1(H.657)[ Ⅰ .アレグロ・ディ・モルト / Ⅱ .ポコ・アダージョ / Ⅲ .プレスト]†

マルツィン・シヴィオントキエヴィチ(チェンバロ*、フォルテピアノ†、指揮)
アルテ・デイ・スオナトーリ

セッション録音:2022年8月7~10日/ポーランド放送ルトスワフスキ・スタジオ(ワルシャワ)
プロデューサー&サウンド・エンジニア:インゴ・ペトリ(Take5 Music Production)
楽器:
(チェンバロ)Christian Fuchs 2008 after Johannes Ruckers
(フォルテピアノ)Michael Walker 1989, rebuilt by Robert Brown 2018 after Johann Andreas Stein

★SACDハイブリッド盤。1993年設立のポーランドのピリオド楽器団体アルテ・デイ・スオナトーリが鍵盤奏者マルツィン・シヴィオントキエヴィチの弾き振りで、カール・フィリップ・エマヌエル・バッハの『ハンブルク交響曲』と鍵盤楽器のための幻想曲を録音しました。
★ C.P.E. バッハは、魅惑的な旋律、突然の遠隔転調、筆記体を思わせる流動的な表現からの意外な離脱など、常に聴き手を虜にする音楽を残しました。『ハンブルク交響曲』はC.P.E.バッハがハンブルク市のカントルと5つの大教会の音楽監督に着任した時期に当時のオーストリア大使ゴットフリート・ファン・スヴィーテン男爵から委嘱された弦楽オーケストラ作品。極端なコントラストによって「破壊的」な音楽スタイルを示しており、アイディアの豊かさ、名人芸、作曲の鋭さから、現在も多くの団体が演奏しています。シヴィオントキエヴィチ率いるアルテ・デイ・スオナトーリは最小編成の弦楽オーケストラで聴き手の心を揺さぶるような衝撃的な演奏を披露しております。
キングインターナショナル

 1984年生まれ、今年40歳となるポーランドの鍵盤奏者マルツィン・シヴィオントキエヴィチは、レイチェル・ポッジャー主宰のブレコン・バロックの通奏低音奏者として、ヴィヴァルディの「四季」やビーバーの「ロザリオのソナタ」など数多くの録音(Channel Classics)に参加、またソリストとしてもバッハのゴルトベルク変奏曲(Rubicon)、チェンバロ協奏曲集(Channel Classics)などを録音するなど、注目を集める気鋭のアーティストです。この新録音は1993年に結成されたポーランドの気鋭のピリオド楽器アンサンブル、アルテ・デイ・スオナトーリとの共演によるカール・フィリップ・エマヌエル・バッハの作品を集めたアルバムとなっています。CDの原題にはと付けられています。直訳すれば器楽による情感の劇場。まさにさまざまな情感表現が1つの作品に次々と現れるC.P.E.バッハの作風を端的に示したものと言えるでしょう。
 C.P.E.バッハの重要作である「ハンブルク交響曲集」(wq.182)は、神聖ローマ皇帝に仕える官吏で大の音楽愛好家にして、後にハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンとも深い関わりを持つスヴィーテン男爵(1733-1803)の依頼による作品群です。弦楽合奏による3楽章形式の交響曲全6曲(長調5曲、短調1曲)から成る曲集となっています。当時の芸術様式にあわせて「疾風怒濤」とも評されますが、それだけにとどまらない複雑な特徴を持っています。父親の対位法的作曲法を受け継ぎながらも、繰り返される頻繁な転調、唐突な休符による不自然な間を用いて場面場面で次々と変化する曲想は、C.P.E.バッハ特有。さまざまな情感が現れては消え、また現れては消えていきます。聴き手を置き去りにしながら疾走するその音楽の虜となるや抜け出せなくなること必至です。
 シヴィオントキエヴィチ率いるアルテ・デイ・スオナトーリの演奏は、C.P.E.バッハが繰り出すひた走る情感表現を色彩を変化させながら示し、目くるめく瞬間の連続を体験させてくれます。シヴィオントキエヴィチは指揮とともに鍵盤楽器を弾きながら通奏低音を担当していますが、曲や楽章によってチェンバロとフォルテピアノを使い分け、その色彩の変化を強調しています。全体的に強弱やテンポの対比も激しく、ただでさえ劇的なC.P.E.バッハの音楽をより劇的に表しているのです。
 またこのアルバムの特長として、交響曲の間に鍵盤独奏による幻想曲が計4曲(3曲はC.P.E.バッハの作品、1曲はシヴィオントキエヴィチによるC.P.E.バッハ様式による即興)収録されています。独奏者としてのシヴィオントキエヴィチの実力を示すものでもあるのですが、交響曲と交響曲をつなぐ役割も果たしており、実に効果的。C.P.E.バッハの幻想曲が交響曲に負けず劣らず強い個性を持つ、まさにファンタジックな曲であることこそがそのつなぎの効果を生んでいるのです。シヴィオントキエヴィチとアルテ・デイ・スオナトーリの変幻自在の演奏には脱帽です。
 「ハンブルク交響曲集」はホグウッド&アカデミー・オブ・エンシェント・ミュージック、ピノック&イングリッシュ・コンサート、ベルリン古楽アカデミー、18世紀オーケストラ、アマンディーヌ・ベイエ&リ・インコーニティ、リッカルド・ミナージ&アンサンブル・レゾナンツ、サカリ・オラモ&オストロボスニア室内管などなど、録音の新旧、ピリオド楽器・モダン楽器を問わず、数多くの録音がリリースされていますが、この録音は、演奏だけでなく、プログラム構成の点でもまた新たなC.P.E.バッハの魅力を引き出した画期的な録音となることでしょう。C.P.E.バッハの魅力にどっぷりつかれる1枚です。(須田)
※84:46という長時間収録になっているのでご注意ください。

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