必聴傾聴盤紹介~「ペルゴレージ:「スターバト・マーテル」&ヴィヴァルディ:「ニジ・ドミヌス」/マールテン・エンゲルチェス&PRJCTアムステルダム」

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『ペルゴレージ:「スターバト・マーテル」&ヴィヴァルディ:「ニジ・ドミヌス」』
マールテン・エンゲルチェス(カウンターテナー、指揮)
シラ・パチョルニク(ソプラノ)

PRJCTアムステルダム
PENTATONE
CD PTC5187053 輸入盤

収録情報

ペルゴレージ:スターバト・マーテル P.77(1736)*
ヴィヴァルディ:ニジ・ドミヌス RV608(ca.1713-1717)

マールテン・エンゲルチェス(カウンターテナー&指揮)
シラ・パチョルニク(ソプラノ)*
PRJCTアムステルダム(バロック・オーケストラ)

録音:2023年4月23、24、26日/スヘリングヴァウデ教会(アムステルダム)
カバー絵画:ローザ・シュヴェニンガー(1848-1918):期待

★世界的な活躍を見せ、高い実力を示している1984年生まれのオランダのカウンターテナー、マールテン・エンゲルチェスが若手ピリオド楽器奏者たちと2017年に結成したバロック・オーケストラ、PRJCTアムステルダムがPENTATONEレーベルに初登場!これまでSONY CLASSICALに2枚のバッハ・アルバムを発表していましたが、PENTATONEデビューとなるこのアルバムには、ペルゴレージの「スターバト・マーテル」とヴィヴァルディの「ニジ・ドミヌス」を収録しています。エンゲルチェスとPRJCTアムステルダムにとって2017年の最初のプロジェクトで取り上げたプログラムとのことで、まさに満を持してのリリースとなります。
★26歳で夭逝したペルゴレージが死の年に作曲した「スターバト・マーテル」。ソプラノとアルトの二重唱で歌われる、言わずと知れた18世紀の宗教音楽の傑作です。18世紀で最も出版を重ねた作品とされ、ペルゴレージの死後もヨーロッパ各地で数多く演奏されました。フランスの定期演奏会コンセール・スピリチュエルでは、最も頻繁に取り上げられたレパートリーの一つとなり、あのバッハも歌詞をドイツ語の詩篇に変え、編曲した作品を残しています(BWV1083)。天才ペルゴレージの表現力が遺憾なく発揮された傑作を、美声と高い表現力で世界の注目を集めるエンゲルチェスが、1993年生まれの若きイスラエル人ソプラノ、シラ・パチョルニクと、どのように聴かせてくれるか、楽しみな録音です。
★またカップリング曲はヴィヴァルディの「ニジ・ドミヌス」。詩篇127篇「主が家を建てられるのでなければ」に付けられたアルト独唱の宗教音楽です。各楽章が多様な様式で書かれたドラマティックな作品で、ヴィオラ・ダモーレの響きが印象的なヴィヴァルディの意欲的作品です。名歌手たちが歌ってきたカウンターテナーの試金石ともされるこの楽曲でのエンゲルチェスの表現力にも期待が高まります。
★18世紀イタリアの傑作宗教曲を、若き才能たちの歌唱・演奏で聴くことのできる注目の1枚です。
※輸入盤のため日本語解説は付属しておりません。
キングインターナショナル

 4歳から少年合唱団のソプラノとして活動をはじめ、16歳でカウンターテナーに転向し、Brilliant Classicsレーベルでのバッハのカンタータ全集の録音に参加し、トン・コープマン、ウィリアム・クリスティ、ジョルディ・サヴァールらと共演するなど着実なキャリアを歩み、その実力を高め、いまや現代を代表するカウンターテナーの一人になったオランダ出身のカウンターテナー、マールテン・エンゲルチェス。2017年には、ヨーロッパの若いピリオド楽器奏者たちを集め、自らのオーケストラとして2017年にPRJCTアムステルダムを創設し、ヨーロッパを中心に大活躍をしています。
 そんなエンゲルチェスとPRJCTアムステルダムのPENTATONEレーベルのデビュー・アルバムとなるのが、このアルバムです。メインはペルゴレージの傑作「スターバト・マーテル」です。
 ペルゴレージの「スターバト・マーテル」は古今の名盤ひしめく音盤界のレッド・オーシャンですが、エンゲルチェスにとっては、PRJCTアムステルダムの最初のプロジェクトで取り上げた楽曲ということもあって、満を持しての録音と言え、その思い入れには想像以上のものがあるのでしょう。ここでソプラノの共演として選んだのは、イスラエル出身の若きソプラノ・リリコ、シラ・パチョルニク。2021年に2つの国際的な古楽コンクール(フランスのコルネイユ・コンクール、イタリアのチェスティ・コンペティション)で優勝し、一躍注目を浴びた美しき実力者です。弦楽器の編成は3-2-2-2-1。通奏低音にはオルガンとテオルボが加わります。エンゲルチェスの解釈は、聖母マリアの悲しみをテーマとした「スターバト・マーテル」の音楽を視覚的なイメージにして訴えかけようとするかのように先鋭的です。声も楽器も冒頭から聖母の心の痛みを示すかのように不協和音が際立っています。歌唱においても、ぶつかる音が多い部分はヴィブラートが抑えられているので、不協和音が美しく痛切に響きます。シラ・パチョルニクの清新な歌声に、表現力抜群のエンゲルチェスの歌唱があわさると一層その美しさが輝くかのようです。ペルゴレージの「スターバト・マーテル」自体は、悲しみを歌っている割には際立って明るい部分もあり、決してテキストの雰囲気に添っているわけではないのですが、この録音では、強弱・明暗などの対比を際立たせることで、長調の部分でさえ、翳りを帯び、聖母の痛切な心情が全編に渡って表現されています。二人の歌手の抜群の表現力と歌唱テクニック、オーケストラの声楽に寄り添い、統一されたアーティキュレーションには目を見張るものがあります(フーガ部分の声と楽器の一体感!)。有名曲と言えど、果敢に新録音に挑んだ実力者エンゲルチェスの面目躍如となる新時代の名演です。
 カップリングにはヴィヴァルディのアルト独唱の宗教曲「ニジ・ドミヌス(主が家を建てられるのでなければ)」を収録。弦楽器にはヴィオラ・ダモーレが加わり、特に緩徐楽章でその効果が発揮される印象深い楽曲です。ヴィヴァルディの独唱宗教音楽としては「スターバト・マーテル」「ヌッラ・イン・モンド(まことの安らぎはこの世にはなく)」と並ぶ代表作と言える名作です。ドラマティックに始まる作品ですが、エンゲルチェスの歌唱は鋭角的なペルゴレージとは異なり、柔らかな表現を中心としている点が特徴的です。エンゲルチェスの幅広い表現方法には驚かされます。ちなみにヴィオラ・ダモーレを奏でるPRJCTアムステルダムのコンサートマスターは、アント・シュテックやルーシー・ファン・ダールらの薫陶を受けたブルガリア出身のイヴァン・イリエフ。アレクシス・コセンコのレ・ザンバサドゥール、イゴール・ルハージのアンサンブル・ヴィオリニ・カプリチョージなどに参加する奏者で、この録音でもヴィオラ・ダモーレの美しい演奏を聴かせてくれています。
 次代を担う古楽界の若いアーティストによる新時代の名演をぜひお楽しみください!(須田)

ちなみに

CDジャケットに使用されているのは、19世紀から20世紀にかけてのオーストリアの女性画家ローザ・シュヴェニンガー(1848-1918)による「期待」の部分です。下の全体図を見れば、宗教画ではないことは明らかですが、CDジャケットのように一部分だけトリミングすると、まるで聖母マリアが悲しみを湛えている表情に見えるから不思議です。確かに「期待」というタイトルの割りには、口元に少し微笑みがあるように見えますが、頬杖を突く典型的なメランコリーの表現ですので、憂いを帯びた感じも出ています。伝統的なイメージを使いながら当世代を描いた趣のある絵画ですね。これをトリミングして使用したCDカバー・デザインのセンスも光ります。

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