必聴傾聴盤紹介~「チェンバロの旅 イタリア・バロック音楽150年の軌跡/平井み帆」

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『チェンバロの旅 イタリア・バロック音楽150年の軌跡』
平井み帆(チェンバロ)
【コジマ録音】
CD ALCD-1221 国内盤
2024年4月7日発売

収録情報

[1] ルッツァスコ・ルッツァスキ: 第4旋法のトッカータ
 Luzzasco Luzzaschi (c.1545 Ferrara-1607 Ferrara): Toccata del quarto tuono
 Girolamo Diruta: IL TRANSILVANO DIALOGO SOPRA IL VERO MODO DI SONAR ORGANI,ET ISTROMENTI DA PENNA. (Venezia,1593)
[2] アスカニオ・マイヨーネ: 《どうぞ私を殺してください》によるディミニューション
 Ascanio Mayone (c.1565 Napoli-1627 Napoli): Ancidetemi pur PRIMO LIBRO DI DIVERSI CAPRICCI PER SONARE (Napoli,1603)
[3] ジローラモ・フレスコバルディ: トッカータ第2番
 Girolamo Frescobaldi (1583 Ferrara-1643 Roma): Toccata seconda TOCCATE E PARTITE D’INTAVOLATURA DI CIMBALO… LIBRO PRIMO (Roma,1615)
[4] ミケランジェロ・ロッシ: ロマネスカによるパルティータ
 Michelangelo Rossi (1601/2 Genova-1656 Roma): Partite sopra La Romanesca Civico Museo Bibliografico Musicale,Bologna [BB 258]
アレッサンドロ・ポリエッティ: ハンガリーの反乱によるトッカティーナ[抜粋]
 Alessandro Poglietti (inizio del XVII secolo Toscana-1683 Vienna): Toccatina sopra la Ribellione di Ungheria [estratto] Arcibiskupský zámek – Hudební sbírka, Kroměříž (1671)
[5] Galop ギャロップ
[6] La decapitation avec Discretion 斬首(慎みを持って)
[7] Passacagliaパッサカリア
[8] Les Kloches (Requiem eternam dona eis domine) 鐘(レクイエム「主よ、永遠の安息を彼らに与えてください」)
ガエターノ・グレコ: チェンバロのためのトッカータ
 Gaetano Greco (c.1657 Napoli-1728 Napoli): Toccata per Cembalo
 Biblioteca del Conservatorio di musica San Pietro a Majella,Napoli [Musica Strumentale74]
[9] Toccata
[10] Fuga
[11] Corrente
ドメニコ・ズィーポリ: 組曲第2番 ト短調
 Domenico Zipoli (1688 Prato-1726 Cordoba/Santa Catalina, Argentina): Suite II in sol minore
 SONATE D’INTAVOLATURA PER ORGANO, E CIMBALO PARTE SECONDA (?Roma,1716)
[12] Preludio (Largo)
[13] Corrente (Allegro)
[14] Sarabanda (Largo)
[15] Giga (Allegro)
ピエトロ・ドメニコ・パラディエス: ソナタ第9番 イ短調
 Pietro Domenico Paradies (c.1707 Napoli -1791 Venezia): Sonata IX in la minore
 Sonate di Gravicembalo (Londra,1754)
[16] Allegro
[17] Andante
[18] ドメニコ・スカルラッティ: ソナタ へ短調 K.69
 Domenico Scarlatti (1685 Napoli-1757 Madrid): Sonata in fa minore K.69
 Biblioteca Nazionale Marciana,Venezia (1742)
[19] ドメニコ・スカルラッティ: ソナタ へ短調 K.184 アレグロ
 Domenico Scarlatti: Sonata in fa minore K.184 Allegro
 Biblioteca Nazionale Marciana,Venezia [Scarlatti Libro2.]

平井み帆(チェンバロ)
Miho Hirai Clavicembalo

■楽器 Instrument:
野神俊哉 2003年製作 イタリアンチェンバロ Toshiya Nogami 2003 Italian Harpsichord
■ 調律 Tuning:
[1]-[8]…ミーントーン Meantone
[9-[15] [18] [19]…ヴァロッティ Vallotti
[16] [17]…ヤング Young II
415Hz

イタリア・バロック音楽を演奏活動の中心に据え、その鍵盤音楽を広く網羅するレパートリーを積み上げてきた平井み帆が、20年ぶりとなるソロCDを発表。自身の思い入れの深い作品を選りすぐり、時代・地域・作曲家ごとに異なるバロック音楽の幅広い特色を伝えるプログラムとなった。多彩なアプローチでチェンバロの可能性を巧みに引き出し、豊かなアーティキュレーションをもって音楽に生命を与える演奏表現が、150年にわたるイタリア・バロック音楽の歴史と情感の旅へと導く一枚。
コジマ録音

平井み帆〈チェンバロ〉
桐朋学園大学ピアノ科卒業。同大学研究科、デン・ハーグ王立音楽院(チェンバロ専攻)修了。有田千代子、ジャック・オッホの各氏に師事。在学中よりユトレヒト古楽フェスティバルに出演する等、ヨーロッパ各地で演奏活動を展開する。帰国後は、北とぴあ国際音楽祭、栃木[蔵の街]音楽祭等の主要な音楽祭に出演する他、各地で活発な演奏活動を行っている。特に17、18世紀のイタリア音楽の研究と実践に注力し、2003年よりリコーダーの太田光子と共にコンサートシリーズ「イタリアバロック音楽の変遷」を開催している。日本・スペイン交流事業としてアランフェスにてD.スカルラッティを中心とするプログラムのリサイタルを行った。CDに「イタリアへの夢Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ」(いずれもレコード芸術誌特選盤)、「ブクステフーデ:ヴァイオリン、ヴィオラ・ダ・ガンバ、チェンバロのためのソナタ全集」(文化庁芸術祭レコード部門優秀賞)等がある。現在、愛知県立芸術大学非常勤講師、富山古楽協会チェンバロ講師を務める他、「通奏低音講座」「バロック舞曲講座」「バロックの音楽理論&演奏法講座」等、日本各地でバロック音楽とチェンバロの魅力を伝えるマスタークラスを行っている。

 イタリア・バロックを演奏活動の中心にしてきたチェンバロ奏者、平井み帆によるイタリア・バロックのチェンバロ音楽150年を巡る旅。幅広い活躍をする平井み帆にとって、意外なことに実に20年振りとなるソロ・アルバムとなっています。
 イタリア・バロック時代の鍵盤音楽の歴史をたどる録音と言えば、天才リナルド・アレッサンドリーニによる1990年代半ばに録音された「イタリア音楽の150年(150 Anni Di Musica Italiana)」と題された3枚のアルバムがありました。その頃からの古楽ファンに方々の中には、アレッサンドリーニのこの録音で、デ・マック、マイヨーネ、トラバーチ、ピッキ、ストラーチェ、アレッサンドロ・スカルラッティといった16世紀後半から18世紀のイタリアに生きた作曲家・音楽家たちの個性的な音楽の魅力を知った方も方もいらっしゃるのではないでしょうか。私もその一人です。それ以降、主にヨーロッパでは、少しずつこうした一般的には知られていないけれども、魅力あふれるイタリア初期バロック時代の鍵盤音楽が録音されるようになってきましたが、日本盤になることはほとんどなく、こうしてようやっと、同様の企画が、平井み帆という実力派の演奏で国内盤が登場したことは、実に画期的なことなのです。
 このアルバムには、ルッツァスキからパラディエスまでの、16世紀後半から18世紀半ばまでの150年に渡るイタリアのチェンバロ音楽が収録されています。取り上げられている作曲家の中で、知名度のある作曲家はいまだフレスコバルディとドメニコ・スカルラッティくらいでしょう。「〈どうぞ私を殺してください〉によるディミニューション」「ハンガリーの反乱によりトッカティーナ」などタイトルを見るだけでも興味津々となるプログラムで、古い鍵盤音楽がお好きな方なら、聴く前からワクワクしてくることでしょう。どの曲もそれぞれの時代だけでなく、それぞれの作曲家の個性が強く、「イタリア・バロック」と一言で語られがちなこの時代のイタリア音楽の多様性をこの1枚で確かめることができます。
 神聖ローマ皇帝に仕え、音楽理論の著作でも名声を博した作曲家ポリエッティの「ハンガリーの反乱によるトッカティーナ」は、当時のハンガリーの貴族が起こした反乱をテーマにした作品で、反乱の顛末が音楽で描写されています。「斬首」となんともダイレクトな楽章タイトルを付けているのも衝撃的です。このような事件の顛末を鍵盤音楽にしたという点では、18世紀後半に作曲されたドゥセックのマリー・アントワネットの処刑を題材とした「フランス王妃の受難」の先駆と言えるかもしれません。ナポリの音楽一家に生まれ、ドメニコ・スカルラッティやペルゴレージを教えたとされるグレコの「チェンバロのためのトッカータ」のドラマ性を感じさせるダイナミックな表現は衝撃的で、その後の18世紀に大輪を咲かせる鍵盤音楽の嚆矢のようです。
 イタリア・タイプの優れたレプリカ楽器を使用し、作品の年代によって3つの調律を使い分ける平井み帆による演奏は、個性を際立たせて個々の作品の魅力を明らかにしていきます。前述したポリエッティやグレコの作品の個性的な面白さを引き出している点もすばらしいですが、細部にまで至る繊細な表情と作品のスケールを広げるダイナミックな表現を同時に聴けるズィーポリ(日本ではツィポーリとも表記されています)の「組曲第2番」の演奏もまた印象深いものがあります。ルネサンス芸術の輝きを放つルッツァスキの「トッカータ」から、古典派への扉を開くドメニコ・スカルラッティのソナタまで、この1枚を聴き通せば、イタリア音楽150年の中に息づく多種多様な個性を感じることができるでしょう。平井み帆のチェンバロが奏でるイタリアの150年を巡る音楽の旅を、ぜひ多くの方に楽しんでいただきたいものです。(須田)

ちなみに

ブックレット収録の日本語解説(音楽学者の室町さやか執筆)は、それぞれの作曲家と作品の情報が的確にまとめられていて、大変興味深く読むことができます。イタリア鍵盤音楽の日本語での貴重な資料となるでしょう。いくつか「譜例」も載っていて、音楽理解の助けにもなっています。このアルバムを聴く際は、ぜひブックレットも熟読しておきましょう。

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