必聴傾聴盤紹介~『J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲/ペトル・スカルカ』

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『J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲(全曲)』
ペトル・スカルカ(バロック・チェロ)
CD CLAVES 50-3101(2CD) 輸入盤

※輸入盤のため日本語解説は付属しておりません。
※入荷までにお時間がかかる可能性がございます。ご了承ください。

収録情報

CD1
●ペトル・スカルカによる即興演奏
● J.S. バッハ:無伴奏チェロ組曲第1 番 ト長調BWV1007
● J.S. バッハ:無伴奏チェロ組曲第2 番 ニ短調BWV1008
● J.S. バッハ:無伴奏チェロ組曲第3 番 ハ長調BWV1009
●ビーバー:パッサカリア~「ロザリオのソナタ」(スカルカ編曲によるチェロ版)
CD2
● J.S. バッハ:無伴奏チェロ組曲第4 番 変ホ長調BWV1010
● J.S. バッハ:無伴奏チェロ組曲第5 番 ハ短調BWV1011
● J.S. バッハ:無伴奏チェロ組曲第6 番 ニ長調BWV1012

ペトル・スカルカ(バロック・チェロ)
使用楽器~
バロック・チェロ:ジュゼッペ・グァルネリ“フィリウス・アンドレア”(1700年頃)
         ダリボル・ブジルスキー製作(2018 年 Op.224)
バロック弓:製作者不明(18 世紀中頃)
      ファウスト・カンゲロージ製作
録音:2020年6月&8月/ヴァリ(チェコ)(セッション)

★カフェ・ツィンマーマンとのC.P.E. バッハ録音でも知られる古楽界のチェロ奏者、ペトル・スカルカ。コロナ禍に母国チェコで挑んだJ.S. バッハの無伴奏チェロ組曲全曲がリリースされます。
★プラハに生まれのスカルカはピルゼン音楽院でチェロを学び、その才能はすぐに開花。国内でのコンクールで優秀な成績を収め、その後、古楽と歴史的な演奏法に興味を持ち、次第に古楽へと傾倒しました。バーゼル・スコラ・カントルムでバロック・チェロと室内楽を学び、名チェリストにして名教師のクリストフ・コワンに師事。古楽の学位を取得しています。現在、ソリストとして活躍するほか、母校で後進の育成にも力を注いでおります。
★パンデミックで世界が一変した2020 年。スカルカは演奏家として自問自答する中、バッハの録音を決意。長年の研究成果といえる当演奏。1 分ほどのスカルカの即興演奏にはじまり、組曲第1 番の前奏曲が奏でられます。決して音楽が重くなり過ぎず、表情豊かな当演奏は新鮮な息吹を感じる名演。使用楽器と弓はともにコピーながら現代の名巧が製作した古楽器でクリアな音が魅力です。また組曲第3番と第4番の間にはビーバーの「ロザリオのソナタ」からパッサカリアを演奏。こちらも注目です。
キングインターナショナル

 凄腕が集う気鋭の古楽グループ、カフェ・ツィンマーマンのチェリストとして知られるペトル・スカルカが、スイスのCLAVESレーベルから突如としてバッハの無伴奏チェロ組曲全曲をリリース!
 チェコのマリエンバードで音楽家一家に生まれたペトル・スカルカはピルゼン音楽院でチェロを学んだ後、古楽と歴史的演奏法に興味を抱き、バーゼル・スコラ・カントールムでクリストフ・コワンに学び、すぐに頭角を現し、カフェ・ツィンマーマン、ラ・シャンブル・フィルアルモニーク(エマニュエル・クリヴィヌ指揮)、アンサンブル・バロック・ド・リモージュ(クリストフ・コワン主宰)などのピリオド楽器グループ&オーケストラに参加。グスタフ・レオンハルトら古楽界の大御所たちとも共演を果たしています。現在は、バーゼル・スコラ・カントールムで後進の指導にも当たっています。
 録音としては、カフェ・ツィンマーマンのバッハやヴィヴァルディのアルバム、フラウト・トラヴェルソの名手カレル・ファルテルのモーツァルトのフルート四重奏曲集やカール・フィリップ・エマヌエル・バッハのフルート・ソナタ集に参加していますが、ソロ録音としてはカフェ・ツィンマーマンとのカール・フィリップ・エマヌエルの交響曲のカップリングとしてチェロ協奏曲1曲があるのみで、このバッハが実質的なソロ・デビュー盤となります。
 アルバムは、スカルカによる即興から始まります。いわゆる「指ならし」のような技巧的なフレーズではなく、清涼感のある瞑想的なもので、静かに音楽が始まる雰囲気を漂わせます。しかし、組曲第1番の前奏曲がはじまると、一気に演奏が炸裂します。切り刻む分散和音が独特で、なにかが砂埃を巻き上げながら突撃してくるイメージさえあります。組曲第1番の前奏曲は、「受胎告知の天使の羽音」と解釈する演奏家がいましたが、これはさながら、ティントレットの「受胎告知」(参考図)の壁をぶち壊して部屋に突撃してくる天使のようです。この部分だけで驚かされる演奏なのです。
 その後も、全体的にかなり速めのテンポで奏でられ、音価は短め、刻むようなリズム、そして時にきつめの音色さえ使い、個性的な表現に生かしています。重音では、上と下の音の音色がかなり異なって聴こえる部分もあり、その和音が際立っています。対照的に、緩徐楽章では、たっぷりとした歌いっぷり、重めながら包み込むような柔らかい音に耳を奪われます。スカルカのテクニックと表現力の幅広さはさすがと言わざるを得ません。とにもかくにもアーティキュレーションが独特であり、聴き慣れた曲目が新鮮な輝きを放ちます。個性の強い演奏が多いピリオド楽器による無伴奏チェロ組曲の録音ですが、これは特に異質な演奏と言えるのではないでしょうか。挑戦的な解釈ながら、聴いていくうちに説得力が増してきて、表現に圧倒されながら、いつの間にかスカルカの演奏を受け入れていることに気が付くでしょう。
 また1点、一般的なバッハの無伴奏チェロ組曲録音と異なる点は、組曲第3番の後に、ビーバーの「ロザリオのソナタ」の最終曲である「パッサカリア」のスカルカ自身によるチェロ独奏編曲版が収録されているところです。この演奏が、バッハの演奏にも負けず劣らず、すばらしく、独特なアーティキュレーションがチェロのオリジナル作品かと思わせるほどの説得力を生み出しています。
 使用楽器は、ブックレットに二つの楽器と二本の弓の表記があり、instruments&bowsと複数形になっているので、2種類の楽器を使い分けているものと想像されます。使用曲の明記がないので、詳細は分かりませんが、おそらく、第1~5番は、オリジナルのグァルネリと18世紀の弓、チェロ・ピッコロなど小型のチェロで弾かれることの多い第6番は現代に製作された楽器と弓だと思われます。スカルカは見事なテクニックでこれらすばらしい楽器を操り、そのポテンシャルを活用することで自らの解釈さえも生み出しているようです。
 ブックレットにはドイツ語・フランス語・英語によるスカルカ本人による解説がいくつかの譜例とともに掲載されており、これがかなり踏み込んだ内容となっています。例えば、「数字の謎」と題された部分は、楽譜からさまざまな数字と言葉を導き出しています(例えば組曲第3番のサラバンドの部分からB-A-C-Hを、など)。また同じくブックレット内に樹木や楽器の写真が掲載されていますが、これはスカルカ自身が撮影したものです(ちなみに彼のHPは、演奏家としてよりも写真家としての方が大きく扱われています)。
 驚きと発見満ちた気鋭のチェロ奏者ペトル・スカルカによるこのアルバムは、その個性的解釈により賛否両論呼び起こすかもしれませんが、バッハの音楽を深く楽しむための道しるべになると思います。ぜひ多くの方に聴いていただきたい録音です。(須田)

ティントレット:「受胎告知」

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