必聴傾聴盤紹介~「フックス:皇帝レクイエム&ペルゴレージ:ミサ曲 ニ長調/ルーカス・ヴァナー」

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『フックス:皇帝レクイエム&ペルゴレージ:ミサ曲 ニ長調』
ルーカス・ヴァナー指揮
ゼロノーヴェ(声楽アンサンブル)

イ・ピッツィカンティ(古楽アンサンブル)
PROSPERO CLASSICAL
CD PROSP0085 輸入盤 ブックレット内に日本語解説収録

収録情報

ヨハン・ヨーゼフ・フックス(c.1660-1741):皇帝レクイエム
ジョヴァンニ・バッティスタ・ペルゴレージ(1710-1736):ミサ曲 ニ長調
ルーカス・ヴァナー(指揮)
ゼロノーヴェ(声楽アンサンブル)
イ・ピッツィカンティ(古楽アンサンブル)

★スイスのアンサンブルによる演奏。対位法の大家として知られたフックスの『レクイエム』と、2015 年に現代譜がきちんと出版されてようやく取り上げられるようになったペルゴレージの『ミサ曲 ニ長調』を収録。どちらも非常に美しい作品です。
キングインターナショナル

 2009年スイスの合唱指揮者ルーカス・ヴァナーによって結成されたバーゼルを拠点とするプロの声楽家たちによるヴォーカル・アンサンブル、ゼロノーヴェと、バーゼル・スコラ・カントールムの卒業生たちによってやはり2009年に結成されたピリオド楽器アンサンブル、イ・ピツィカンティの共演による、名作ながら、比較的録音の少ない教会音楽の名作2編。ブックレットには録音データがないため詳細は不明ながら、ライヴ録音とあるので、彼らが公式YOUTUBEチャンネルにアップしているコンサート映像(2022年10月のライヴ)のCD化だと思われます。CD化に当たってマスタリングなどは行っているものと思われるので、YOUTUBE動画よりは音質的に良いでしょう。
 ヨハン・ヨーゼフ・フックス(1660-1741)は神聖ローマ皇帝カール6世に仕えたオーストリアの作曲家・音楽理論家。フックスが著した対位法の教本「グラドゥス・アド・パルナッスム」は、モーツァルトらその後の音楽界に絶大な影響を与えました。フックスは、ウィーンの宮廷のためにオペラやオラトリオなど大規模な作品を数多く作曲しましたが、教会音楽の代表作といえば、「皇帝レクイエム」の名で知られる死者のためのミサ曲です。知名度の割に録音が少なく、その質の極めて高いので、こうした新鋭グループが積極的に取り上げてくれるのはうれしいところです。「皇帝レクイエム」とされていますが、初演は1720年3月5日のレオポルト1世の未亡人エレオノーラ・マグダレーナの葬儀のためと推測されています。その後、カール6世(1740年と1741年のの命日)他、神聖ローマ皇帝やその関係者のための葬儀や命日の礼拝のために使用されたため、「皇帝レクイエム」と呼ばれるようになったようです。短いシンフォニアの後、掛留が美しい合唱が鳴り響き、天から降り注ぐような下降音階の美しさが強く印象に残ります。「怒りの日」の迫力、アニュス・デイの美しさなど、随所に優れた対位法が用いられた聴きどころ満載の名作です。18世紀に作曲された数あるレクイエムの中でも屈指の美しさを持つと言っても過言ではないでしょう。
 カップリングは、ジョヴァンニ・バッティスタ・ペルゴレージ(1710-1736)の「ミサ曲 ニ長調」。ペルゴレージと言えば、なんといっても「スターバト・マーテル」ですが、その他の宗教音楽も作曲していました。近年になって少しずつ「スターバト・マーテル」以外の作品も録音されるようになってきましたが、「ミサ曲 ニ長調」は2015年になって初めて現代譜が整えられたもので、おそらくこの録音が2つの録音となるようです。ソプラノとアルトのために書かれた「スターバト・マーテル」とは異なり、金管楽器も伴う大規模な合唱作品となっています。ミサ典礼文すべてに作曲されたわけではなく、キリエとグローリアのみである点が特徴的ですが、これは当時のナポリではそれほど珍しいことではなかったようです。それでも30分以上の演奏時間を要しますので、なかなかの規模の作品といえるでしょう。このミサ曲が書かれた経緯は明らかでないようですが、金管楽器を伴う祝祭的な雰囲気やペルゴレージが何度も修正を加えているという事実から、大規模な典礼で何度か演奏されたことは疑いないようです。独唱の技巧性と美しさだけでなく、合唱の構成も興味深く、特に最後の「クム・サンクト・スピリトゥ」のフーガの生き生きとして華やかな雰囲気は聴きものです。オリジナルの楽器編成は弦楽合奏と通奏低音にオーボエ、トランペット、ホルンですが、この録音では、「響きの観点から」ツィンク(コルネット)とトロンボーンに変更されているとのことです。
 ルーカス・ヴァナーが率いるこの演奏は、合唱団の精度の高さと合唱団員選抜による独唱の歌唱力のすばらしさが印象的です。フックスの「皇帝レクイエム」では、高山潤子(ソプラノ2)、大野彰展(テノール)というバーゼルで学んだ日本人歌手のすばらしい独唱も聴くことができます。どちらの作品も録音自体が稀で、聴く機会の少ない作品ですが、こうした優れた歌唱・演奏で聴くとその真価を知ることができるでしょう。
 ブックレットには解説の日本語訳も掲載されていて、フォントや文字の大きさなどが不統一で、固有名詞にも揺れがあり、若干読みにくい点がありますが、翻訳自体はしっかりしているので、ありがたいものです。日本語での解説が少ないフックスやペルゴレージの作品の貴重な日本語資料と言えるものでしょう。
(山野楽器スタッフ)

ちなみに

・フックスの「皇帝レクイエム」にはクレマンシック・コンソートによる録音があり、いまだ国内盤が発売されています(2024年3月現在)。フックスの他の教会音楽や器楽作品も収録されており、1枚まるごとフックスの作品で構成されています。レクイエムを中心とする音楽典礼を再現するかのようなプログラムです。クレマンシックの指揮による演奏もすばらしいので、こちらもあわせてお聴きください。なお、コンサータマスターは、ヒロ・クロサキである点にも注目です。
皇帝のレクイエム~フックス:作品集』(BVCE-38107)

・ペルゴレージの「ミサ曲 ニ長調」にも先行録音があります。ジュリオ・ブランディ率いるギスリエーリ合唱団&コンソートによる録音で、これが世界初録音でした。モテット「然るべき賛美の歌を」をカップリングしており、どちらも規模の大きなペルゴレージの宗教音楽となっています。演奏もすばらしいものです。
ペルゴレージ:ミサ曲 ニ長調(世界初録音)』(NYCX-10002)

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