クラシック聴き比べの楽しみ 第2回~ベートーヴェン:交響曲第5番「運命」

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クラシック音楽の醍醐味の一つが聴き比べです。同じ曲でも、異なる演奏で聴けば、かなり違って聴こえることもしばしば。より深く曲に親しむことができます。ここではそうしたクラシック音楽の聴き比べを曲ごとにご提案していきます。

永遠の定盤!カラヤン&ベルリン・フィルの「運命」

ベートーヴェン:交響曲第5番「運命」・第6番「田園」
ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

CD ユニバーサルミュージック UCCS-50093 国内盤

【クラシック百貨店】【第5回 交響曲編】【SHM-CD仕様】【グリーン・カラー・レーベルコート】劇的な《運命》と牧歌的な《田園》。同時期に作曲されながら全く対照的なベートーヴェンの名交響曲を収録したアルバムです。帝王カラヤンは手兵ベルリン・フィルを指揮して交響曲全集を再三録音しましたが、この演奏は最後となった1982年の録音で、精緻にしてダイナミックなベートーヴェン解釈の究極が記されています。
ユニバーサルミュージック

収録情報

ベートーヴェン:

  1. 交響曲 第5番 ハ短調 作品67《運命》
  2. 交響曲 第6番 へ長調 作品68《田園》

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
指揮:ヘルベルト・フォン・カラヤン

録音:1982年11月 ベルリン


 ベートーヴェンの「運命」の冒頭の「ジャジャジャジャーン」はあらゆるクラシック音楽の中で最も有名な旋律と言っても過言ではないでしょう。学校の授業ではもちろん、ロックやポップスにも編曲されています。この始まりが「運命」というタイトルにぴったりだからこそ、曲名と音楽が結びついて記憶に残るのでしょう。
 ですが、実はこの「運命」というタイトル、ベートーヴェン自身が付けたものではありません。「このように運命は扉をたたく」とベートーヴェン自身が発言したベートーヴェンの秘書であったシンドラーが書き残しているのですが、どうやらこれは捏造のようなのです(このシンドラーの捏造については、かげはら史帆氏の著作「ベートーヴェン捏造 名プロデューサーは嘘をつく」(河出文庫)に詳しいのでぜひご参照ください。内容もとても面白いのでオススメです)。
 ですが、この作品が音楽史上に残る革新的作品であり、大傑作であることは疑いようがありません。あらゆるクラシック音楽の中でもこの曲は最も愛され、最も演奏され、最も録音された作品の一つと言えるでしょう。
 「運命」の代表的な録音として挙げられるのが、カラヤンの1980年代の録音です。ベートーヴェンの交響曲を何度も録音したカラヤンですが、1980年代の録音はその集大成であり、磨き上げられたオーケストラの響きと深い解釈が融合した世紀の名演と称えられるものです。
 ちなみに同時収録されている交響曲第6番「田園」は「運命」とは全く異なる作風ですので、あわせて聴くと、ベートーヴェンの作風の幅広さを実感できることでしょう。
(山野楽器スタッフ)

作曲当時の響きはこのようなものだった?古楽器による決定的名演!

『ベートーヴェン:交響曲第5番≪運命≫ 劇音劇≪エグモント≫序曲、序曲≪コリオラン≫』
フランス・ブリュッヘン指揮18世紀オーケストラ
CD ユニバーサルミュージック UCCD-90133 国内盤

コンサート・ツアーを通じて演奏の質を高め、その締め括りとしてライヴ録音するというスタイルで熱気に満ちた名盤を産み出してきたブリュッヘン&18世紀オーケストラ。見事な統一感や緊密な構成に貫かれた交響曲第5番では意識的な表現過多を排し、まさに傑作にふさわしく真正面から取り組んだ潔い演奏を聴かせています。
ユニバーサルミュージック

収録情報

ベートーヴェン:
1.劇音楽≪エグモント≫ 作品84 序曲
2.序曲≪コリオラン≫ 作品62
3ー6.交響曲第5番ハ短調 作品67 ≪運命≫ 

フランス・ブリュッヘン指揮18世紀オーケストラ

録音:1990年12月、1991年7月/収録場所:オランダ、ユトレヒト、フレデンブルク

 1980年代からは、ベートーヴェン作品の古楽器での演奏も増えてきています。ベートーヴェン時代に使用されていた楽器のオリジナルやそのレプリカを使用し、その当時の演奏法を研究し取り入れた演奏は、既存のベートーヴェン演奏と大きく異なり、ベートーヴェンという作曲家像にさえ、大きく変えることになりました。
 その古楽器による「運命」の代表的な録音は、巨匠フランス・ブリュッヘンのもの。ブリュッヘンのカリスマの下に集った古楽器の名手たちから成る古楽器(ピリオド楽器)オーケストラ、18世紀オーケストラを結成し、ベートーヴェン、モーツァルト、ハイドン、シューベルト、メンデルスゾーンといった作曲の作品を次々と録音し、クラシック音楽の演奏に新しい潮流を生み出しました。
 この「運命」の録音でも、真摯に作品と対峙するブリュッヘンの美学が貫かれており、それまでのベートーヴェン演奏とはまた違ったベートーヴェンの魅力を引き出すことに成功しています。ぜひ、カラヤンの演奏と聴き比べてみてください。
 ちなみに同時収録されいる2曲の序曲もすばらしい演奏ですので、ぜひ一緒にお楽しみください。(山野楽器スタッフ)

最新の研究の成果が結実!ロト&レ・シエクルによる斬新なベートーヴェンの「運命」!

『ベートーヴェン:交響曲第5番≪運命≫』
フランソワ=グザヴィエ・ロト指揮レ・シエクル
CD harmonia mundi/キングインターナショナル KKC6268 輸入盤国内仕様 日本語解説付

★ベートーヴェン・イヤー最注目の新譜がリリースされます。今年前半はクルレンツィスとムジカエテルナの衝撃的な「運命」が話題をさらいましたが、後半はロトとシエクルが同じ曲で応戦。ロト(1971年11月生まれ)とクルレンツィス(1972年2月生まれ)は日本風にいえば同学年ながら、ライヴァル心を燃やすようなことはなく、まったく異なる価値観でこの名曲に挑戦しました。
★ロトとレ・シエクルは、ベートーヴェンとフランスの特別な関係にテーマの中心を置いています。当初ナポレオンを崇拝し、本質的に革命家的感性を持つベートーヴェンはパリの空気を愛し、居住さえ考えたといわれます。ロトは交響曲第5番「運命」にフランス革命や革命歌の影響が感じられるとしています。
★今回の録音は2019年のベーレンライター版楽譜を使用、管楽器はレプリカながら1800年代初頭のドイツ製楽器を用いているのも興味津々。各楽章のタイムは
第1楽章:6’56”  第2楽章:9’02”  第3楽章:5’12”  第4楽章:10’33”
フィナーレが長めなのは繰り返しを行なっているためで、基本的にロトらしい推進力に満ちた早目のテンポによります。歯切れの良いリズム、聴いたことのないような弦のフレージング、明るく輝かしい音色などドイツ系演奏とは一線を画し、まさにロトとレ・シエクルにしかできない演奏を繰り広げ充実感の極み。
★カップリングにフランソワ=ジョゼフ・ゴセック(1734-1829)が1809年に発表した「17声の交響曲」を収録。ゴセックといえば「ガヴォット」で有名ですが、ラモーやシュターミッツと面識があり、ベートーヴェンやシューベルトよりも後まで生きた歴史の証人でもありました。ゴセックはシンフォニストとして非常な人気を誇り、また当時フランスの管楽器奏者の水準が高くそれを作品に反映させているため、ベートーヴェンは多くのことを学び作品に応用したとされます。
★「17声の交響曲」はもともと1780年代に作った3部分の序曲を拡大改作したもので、「サ・イラ」など革命歌が引用されています。また改作直前に発表・出版されたベートーヴェンの「運命」からの影響があるとも考えられています。これまで用いられてきた楽譜とは大きく装いを異にする2018年出版のクリティカル版楽譜を使用。ロトとレ・シエクルの力演で名作に聞えます。
キングインターナショナル

収録情報

①ベートーヴェン:交響曲第5番ハ短調Op.67「運命」
②ゴセック:17声の交響曲ヘ長調RH64

フランソワ=グザヴィエ・ロト(指揮)
レ・シエクル

録音:2017年3月/フィルハーモニー・ド・パリ(ベートーヴェン)、2020年2月/ブローニュ=ビヤンクール、ラ・セーヌ(ゴセック)

 古楽器によるベートーヴェンの交響曲録音の嚆矢となった上記のブリュッヘン&18世紀オーケストラの演奏から30年以上。その間、クラシック音楽の研究も日進月歩の勢いで進んでいきます。1990年代には分からなかったことが判明したり、見つからなかった当時の楽器が見つかったり、その楽器から精巧なレプリカを作る技術も向上したり。そうして登場した録音が、この録音です。指揮者のフランソワ=グザヴィエ・ロトは最もその動向に注目が集まる指揮者の一人で、世界的に現代最高峰の評価を得ています。ロトとその楽団レ・シエクルは、作品が作曲された当時に使用されていた楽器のオリジナル、またはその精巧なレプリカを可能な限り集め、録音に用います。そして当時の演奏法などの最新の研究を取り入れ、最新の校訂譜を使い、常に斬新な録音を発表し続けています。この「運命」の録音でも、その姿勢は貫かれており、これまでの録音にはないフレージングや響きを聴くことができます。フィナーレも繰り返しを充実に行い、長めになっている点も注目です。カラヤンの録音はもちろんのこと、同じ古楽器のブリュッヘンの録音ともかなり異なる印象を受けるはず。ぜひ聴き比べをお楽しみください。
ちなみにカップリングには、ベートーヴェンの「運命」の影響を受けたと言われるベートーヴェンと同時代のフランスの作曲家ゴセックの「17声の交響曲」を収録。これを「運命」と聴き比べるのも面白いものです。(山野楽器スタッフ)

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