必聴傾聴盤紹介~「上野優子 リサイタル with KAWAI ラヴェル プロコフィエフ」

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『上野優子 リサイタル with KAWAI』
上野優子(ピアノ/Kawai SK-EX)

【FONTEC】
CD FOCD20138 国内盤

収録情報

ラヴェル:鏡
プロコフィエフ:
バレエ「シンデレラ」から10の小品 Op.97
ピアノ・ソナタ 第6番 イ長調「戦争ソナタ」Op.82
ピアノ・ソナタ 第7番 変ロ長調「戦争ソナタ」Op.83より第3楽章

上野優子(ピアノ)

録音:2023年4月19日 すみだトリフォニーホール 小ホール ライヴ録音

ピアニスト上野優子が2017年より開始したコンサート「プロコフィエフ・ソナタ全曲シリーズ~プロコフィエフにはどのピアノがお似合い?~(全6回)」ライヴ録音の第3集。
サブタイトルにある通り、この演奏会は6種類の楽器(スタインウェイ、ファツィオリ、ヤマハ、ベヒシュタイン、ベーゼンドルファー)を駆使して、プロコフィエフのソナタ全曲を演奏する試みです。
今回は「肉声のような表現ができる」カワイSK-EXによるラヴェル、プロコフィエフです。
FONTEC

上野優子
桐朋女子高校音楽科を経て同大学2年次に渡欧、イモラ国際ピアノアカデミー(伊)ピアノ科ディプロマ取得、パリ・エコールノルマル音楽院ピアノ科コンサーティスト課程ディプロムをアルゲリッチ、エル=バシャ、カツァリス各氏に認められ取得。’09年同音楽院室内楽科コンサーティスト課程ディプロムを審査員満場一致で取得。
全日本学生音楽コンクール、浜松国際ピアノアカデミーコンクール、フンメル国際ピアノコンクール他入賞多数。これまでストレーザ・マッジョーレ湖音楽祭、イタリア・モーツァルト協会例会マチネー、パリ・サルコルトー、ブールジュ・サンボネ劇場、都民芸術フェスティバル、ラフォルジュルネ「熱狂の日」エリアコンサート等々、ソリスト、室内楽奏者として出演する他、スロヴァキアフィルハーモニー管弦楽団、日本フィルハーモニー交響楽団などオーケストラ共演も多数。またイタリア国営テレビRAI3、スロヴァキアFM、NHK-FMなどに出演、国内外での活躍ぶりが音楽専門誌、新聞など各メディアで高く評価されている。
現在、演奏活動の他、音楽雑誌など専門媒体での執筆、コンクール審査、レクチャーなど、その活動は多岐にわたる。録音も積極的に行っており、’08年デビューCD、’15年セカンドアルバムが「レコード芸術」誌において準推薦盤・準特選盤に、’20年ライヴ録音CD、’22年ライヴ録音CDが「音楽現代」誌で注目盤・特選盤にそれぞれ選出。プロコフィエフの作品を校訂した3冊の楽譜が全音楽譜出版社より出版。’17年にスタートした「プロコフィエフ・ソナタ全曲シリーズ」は、注目のツィクルスとして話題になっている。
これまでにピアノを鬼村弘子、鍵岡眞知子、深沢亮子、有賀和子、F.スカラ、L.マルガリウス、B.ペトルシャンスキー、O.ヤブロンスカヤ、J.ムニエ、M.リビツキー、J.M.ルイサダ各氏に、フォルテピアノをS.フィウッツィ氏に、室内楽をG.マルティニー氏に師事。日本アレンスキー協会運営委員、日本ピアノ教育連盟(JPTA)中央運営委員、日本・ロシア音楽家協会運営委員。全日本ピアノ指導者協会(PTNA)、日本演奏連盟、日本ショパン協会各正会員。
上野優子X(旧Twitter) https://twitter.com/yukoueno325

 精力的な演奏活動をし、高い評価を得ているピアニスト、上野優子が、2017年より開始したコンサート「プロコフィエフ・ソナタ全曲シリーズ~プロコフィエフにはどのピアノがお似合い?~(全6回)」。毎回、スタインウェイ、ファツィオリ、ヤマハ、ベヒシュタイン、ベーゼンドルファー、カワイという異なる6社のピアノメーカーの楽器中から1つ選択し、その楽器の特性とともに演奏会のプログラムを作り上げる意欲的なコンサート・シリーズで、開催の度に、各方面より絶賛されています。
 コンサート・シリーズの中心となるのは、タイトル通り、プロコフィエフのピアノ・ソナタ。シリーズを通して全曲を演奏する計画ですが、毎回、プロコフィエフ以外の作曲家の作品を組み合わせ、その周到なプログラムも注目を集めています。このコンサートの模様を収めたシリーズCDの第3弾となるこのアルバムでは、Kawai SK-EXを使用し、プロコフィエフのピアノ・ソナタ第6番、「シンデレラ」からの10の小品に、ラヴェルの「鏡」を組み合わせています。ラヴェルを尊敬していたプロコフィエフは、1920年12月にパリでラヴェルと出会っているそうで、大きな影響を受けています。ラヴェルとプロコフィエフの作品を一夜のコンサートのプログラムで組み合わせることで、それぞれの作品の特性を浮かび上がらせることに成功しています。
 アルバムはラヴェルの「鏡」から始まります。各曲は、ラヴェルらが中心となって1900年頃にパリで結成された芸術家サークル「アパッシュ」のメンバーに捧げられています。1曲目の「蛾」は夜に飛び回る蛾やこうもり、みみずくなどの動物、2曲目の「悲しい鳥たち」は森で早朝に聴こえたツグミの鳴き声など、標題が示す描写的な表現が聴かれ、それをラヴェル独特の幻想性で染め上げた詩的な曲集となっています。この個性的な作品集を、上野優子は「肉声のような表現ができる」というKAWAIのピアノで、まるで象徴派の絵画のように、色鮮やかに、幻想的に描き出しています。フォルテでも透明感が保たれ、美しく響かせるテクニックと表現には驚かされます。また5曲中、最も舞曲要素が前面に出ている「道化師の朝の歌」でのリズミカルな演奏も曲の特徴をとらえた見事なものです。
 このラヴェルの作品に続くのは、プロコフィエフのバレエ「シンデレラ」からの10の小品。「鏡」とは標題的な内容、その幻想的物語性に共通項があり、作曲家の異なる2つの曲集が自然とつながって聴こえます。この曲構成は上野優子の見識を示すものと言えるでしょう。おとぎ話のように美しく幻想的な音色で、生き生きとストーリーが語られ、その音楽に自然と惹きこまれていきます。
 そしてメインとなるプロコフィエフのピアノ・ソナタ第6番「戦争ソナタ」。ここでは、前半の雰囲気とはがらりと変わり、荒々しい表現が迫真性をもって示される壮絶な演奏が繰り広げられます。また時に挟まれる抒情性との対比は明滅的なめまいを引き起こします。社会も私生活も波乱のあった時期に書かれたこの作品におけるプロコフィエフの複雑極まりない心情を物語るかのような圧巻の演奏です。
 アルバムは、プロコフィエフのピアノ・ソナタ第7番第3楽章のプレチピタートで締めくくられます。疾走感あふれる幕引きは強烈な印象を残すものでしょう。
 またブックレットの曲目解説も上野優子本人によるもので、演奏者ならではの視点から的確にまとめられているので、曲理解に大いに役立つでしょう。全集完成が待ち遠しくなるすばらしい1枚です!(須田)

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