必聴傾聴盤紹介~『植山けい チェンバロ リサイタル 2021』

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『植山けい チェンバロ リサイタル 2021』

植山けい(チェンバロ:ルッツ・ヴェルーム2009年製作/J.ルッカース1624年モデル)
C&K CK-001 国内盤 録音:2021年6月11日 東京オペラシティ近江楽堂(ライヴ)

収録曲

ジャック・デュフリ:クラヴサン曲集第1集より
1.アルマンド
2.クーラント
ジャック・デュフリ:クラヴサン曲集第3巻より
3.三美神
4.シャコンヌ
ヨハン・セバスティアン・バッハ:半音階的幻想曲とフーガ ニ短調 BWV903
5.幻想曲
6.フーガ
ドメニコ・スカルラッティ:
7.ソナタK.213 ニ短調 アンダンテ
8.ソナタK.141 ニ短調 プレスト
ヨハン・セバスティアン・バッハ:イタリア協奏曲BWV971より
9.第2楽章 アンダンテ

 バッハの「ゴルトベルク変奏曲」や「パルティータ集」の録音で日本だけでなく、世界的にも高く評価されている、植山けいによるリサイタル録音が登場。植山けいの自主レーベル第1弾で、2021年6月11日に東京オペラシティ近江楽堂でライブ収録されている。小さなホールでの録音であるが、かなり近接で取られており、まるで演奏者が聴いている音をそのまま聴いているかのような臨場感があります。
 プログラムは、当日の演奏曲目から選ばれたもので、18世紀後期のフランスの作曲家のデュフリではじまり、バッハの半音階的幻想曲とフーガ、ドメニコ・スカルラッティのニ短調のソナタ2曲と続き、最後にはアンコール的にバッハのイタリア協奏曲の第2楽章が配置されています。
 デュフリの作風は、まさに当時のフランス文化を彩ったギャラントそのものだが、こうしたフランス作品では、クリストフ・ルセの下で学んだ植山の真骨頂を聴くことができると言っても過言ではないでしょう。華麗さと繊細さにダイナミックな表現が加わり、フランスの華美な芸術の表面だけでなく、その奥にあるものまで聴かせてくれます。特に「シャコンヌ」の演奏の説得力はすばらしいの一言。
 バッハの「半音階的幻想曲とフーガ」では、デュフリの雰囲気や世界観とガラッと変わり、不穏さや怖ささえ感じさせます。幻想曲部分での独特の揺れと間、不協和音の思わせぶりな響かせ方、フーガでの構築感の中に現れる心をゾワゾワさせるなにか。実に独特な、彼女ならではの解釈と言って良いでしょう。これは彼女の中で、Covid19によるパンデミックという世界的な現状の中で死生観が変化し、一説には最初の妻への追悼曲ではないかとされるこのバッハの作品のヴァニタス(世の儚さ)やメメント・モリ(死を憶え)的な側面を引き出したからではないかと思われます。この解釈は聴きものです。
 ドメニコ・スカルラッティのソナタニ短調K213は、どこかバッハの音楽の捧げものの主題を思わせる旋律で始まるシンプルながらも悲劇的な曲調で、チェンバロの音色の美しさが活かされた静謐な美の世界。同じニ短調のK141は、打って変わって激しいフラメンコ的なリズムとギターを思わせるかき鳴らしが特徴的な作品。彼女の個性の一つである、ダイナミックな表現力が完璧に活かされた圧巻の演奏です。小曲に関わらず演奏の凄さに飲み込まれてしまうでしょう。
 最後にアンコール的に配置されたイタリア協奏曲の第2楽章も濃密な表現で、決して軽い内容ではありません。余韻が長く続く終わり方です。
 当日のコンサートすべてを収録したアルバムではありませんが、デュフリ、バッハ、スカルラッティの3人の大作曲家の個性が際立つ作品を並べ、チェンバロの多様性を聴かせる内容の濃い、完成度の高いアルバムに仕上がっています。なお当日の会場の拍手やメカニックノイズも収められていますが、かえってコンサート会場にいるかのような臨場感を与えてくれていることも記しておきましょう。ぜひ、じっくりと腰を据えて聴いていただきたいアルバムです。

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