必聴傾聴盤紹介~『アントニオ・リテレス:アルトのための宗教カンタータ集/カルロス・メナ』

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『アントニオ・リテレス:アルトのための宗教カンタータ集/カルロス・メナ』

カルロス・メナ(カウンターテナー)
ダニエル・ピンテーニョ(ヴァイオリン&指揮)コンチェルト1700
リカルド・カサン (トランペット) ハコボ・ディアス (オーボエ) 
パブロ・プリエト (ヴァイオリン) エステル・ドミンゴ (チェロ)
イスマエル・カンパネロ (ヴィオローネ) パブロ・サピコ (テオルボ)
イグナシオ・プレーゴ (チェンバロ、オルガン)
Concerto1700 17003 輸入盤
録音 : 2020年7月、サン・ロレンソ・デ・エル・エスコリアル、スペイン

曲目詳細

曲目:
地平線の彼方に [Ya por el horizonte] (聖体の秘跡のための) (1728)
もしも風が [Si el viento] (聖体の秘跡のための) (1725頃)
船が沈むとき[Cuando a pique, Señor] (聖体の秘跡のための) (1733)
この致命的な一口で [De aquel fatal bocado] (聖体の秘跡のための) (1730)

 アントニオ・リテレス(1673-1747)はマヨルカ島に生まれたスペインの作曲家。1686年にはマドリッドに移住し、いくつかの要職を経て、1693年に王宮礼拝堂のチェロ奏者に就任し、その後、楽長にまで昇進しました。サルスエラの作曲家としても活躍し、18世紀スペインを代表する作曲家として評価されています。
このアルバムには、リテレスの比較的知られていない教会音楽が収録されています。おそらく王宮礼拝堂で披露されたであろうスペイン語によるアルトのための教会カンタータで、収録の4作すべてが聖体の秘跡の祝日のための楽曲となっています。この4作は、なんとグアテマラの大司教区のアーカイヴに残されていたものだということですので、リテレスの作品は海を渡った宣教師たちが布教のためにアメリカ大陸に持って行ったのでしょう。それほど当時としては受け入れられた作品だったと思われます。
実際にCDを聴いてみると、その音楽の生き生きとした様に魅了されるでしょう。冒頭の「地平線の彼方に」はクラリーノ(トランペット)を伴う推進力のある技巧的な作品で、アルトとトランペットのメリスマによる掛け合いというすさまじいパートが出てきます。まるでアルトとソプラノの二重カンタータのようにトランペットが活躍します。トランペットを伴う点と、このような掛け合いとなる点は、イタリアのアレッサンドロ・スカルラッティからの影響を感じられ、おそらく17世紀後半のローマの様式がスペインに伝わった音楽を直接的及び間接的に研究した結果だと思われます。一方、スペインは18世紀初めにルイ14世の孫のフェリペ5世が即位し、スペイン・ブルボン朝が誕生するなど、フランスの強い影響も受けていました。フランス様式の音楽も当然受容され、スペインの作曲家の作風にも取り入れられるようになっていました。リテレスの音楽にも、メヌエットの舞曲が取り入れられているとのことです。私見ですが、カンタータのレチタティーヴォの部分が、イタリア的の中にも、フランスのレシのような雰囲気の部分が出てくるのが興味深いと思われます(例えば「船が沈む時」のレチタティーヴォ)。フランスにも世俗の独唱カンタータの伝統があり、また独唱や重唱による小さなモテット=プティ・モテの伝統もありますので、そうした様式がスペインでも伝わっていたのかもしれません。リテレスの作品は、こうしたイタリアやフランスの音楽の様式にスペイン語独特の発音や響きが加わり、実に独特な雰囲気をまとった教会カンタータとなっています。
 このアルバムで、独唱を務めるカウンターテナーのカルロス・メナは、スペインを代表するカウンターテナーで、フィリップ・ピエルロのリチェルカール・コンソートとの共演でも知られる名歌手です。リチェルカール・コンソートの来日公演でも彼の歌声を聴いて衝撃を受けた日本のファンも多いことでしょう。透明感のある美声と音域を縦横に駆け抜けても乱れない高度な歌唱能力を持ち、余裕綽綽といった風情で圧巻の歌唱を聴かせてくれます。リテレスの音楽をより魅力的にしてくれています。ヒロ・クロサキらバロック・ヴァイオリンの巨匠たちの薫陶を受けたスペインの気鋭のバロック・ヴァイオリン奏者のダニエル・ピンテーニョ率いるコンチェルト1700には、スペイン古楽界を牽引する名手たちが集っています。チェンバロ、オルガンのイグナシオ・プレーゴは、GLOSSAから発売されたソロ・アルバムがレコード芸術特選になるなど日本でも注目度の高い奏者となっていますし、テオルボのパブロ・サピコの名前も熱心な古楽ファンにはおなじみの名前でしょう。また1曲だけですが、ナチュラル・トランペットのリカルド・カサンの完璧な吹奏は驚愕ものです。スペイン・バロックの貴重な音楽の録音というだけでなく、その質の高い歌唱と演奏にも大注目したい1枚です。
  

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