必聴傾聴盤紹介~『オルランド・ディ・ラッソ:マタイ受難曲/ベアータ・ムジカ・トキエンシス』

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『オルランド・ディ・ラッソ:マタイ受難曲/ベアータ・ムジカ・トキエンシス』

ベアータ・ムジカ・トキエンシス
Regulus RGCD-1051 国内盤
録音 : 2022年4月19日~22日、
秩父ミューズパーク音楽堂

曲目詳細

オルランド・ディ・ラッソ:マタイ受難曲
Orlando di Lasso(1532-1594):Passio secundum Matthaeum

ベアータ・ムジカ・トキエンシス
(鏑木綾、望月万里亜、長谷部千晶、及川豊、田尻健、小笠原美敬)
Regulus RGCD-1051 国内盤

 2013年10月に古楽界の第1線で活躍を続けるプロの演奏家たちによって結成された日本のアカペラ声楽アンサンブル、ベアータ・ムジカ・トキエンシスが、ルネサンス後期の巨匠ラッソの『マタイ受難曲』を録音!16世紀前後のルネサンス期の宗教音楽を主なレパートリーとしているベアータ・ムジカ・トキエンシスは、2019年3月にこの曲をコンサートで取り上げ、好評を博しました。今回は、満を持しての録音となっているのです。
 パレストリーナと並ぶルネサンス後期の巨匠でありながら、意外なほど録音に恵まれていないオルランド・ディ・ラッソ(オルランドゥス・ラッスス、オルランド・ディ・ラッススとも)。神聖ローマ皇帝やローマ教皇ら時の権力者たちから寵愛を受け、ヨーロッパ各地で曲集が出版されるなど、生前から絶大な影響力を誇ったラッソは、幅広いジャンルの作品を残していますが、やはりその宗教音楽はラッソの作品の中核を成しています。その宗教曲でも特異な位置を占めるのは受難曲。マタイ・マルコ・ルカ・ヨハネという4つの福音書のキリストの受難に関する部分をテキストとする教会音楽で、ラッソは4つの受難曲を残しています。ラッソの受難曲の作曲スタイルは、多声ポリフォニー部分と単声の朗唱部分が交互に現れる応唱受難曲と呼ばれるもので、4つの受難曲の中でも『マタイ受難曲』は唯一出版され、その後100年以上、筆写や演奏がされ続けたという成功した作品でした。なおブックレットにはラッソとこの受難曲に対する分かりやすい解説(斉藤基史氏執筆)が収録されているので、ぜひ音楽と一緒にご覧になることをお勧めします。
 全編無伴奏で歌われるこの曲の歌唱は、一般的なルネサンス・ポリフォニー作品以上に困難ですが、ベアータ・ムジカ・トキエンシスは細かい部分まで丁寧な精度の高い歌唱で聴かせてくれています。ポリフォニーと単旋律部分の描き分けも明確で、イエス・キリスト受難の物語を歌で浮き彫りにしていきます。福音史家の及川豊さんの歌唱は特筆すべきものでしょう。なお、10トラック目に、5声のモテット「私の魂は死ぬばかりに悲しい」(Tristis est anima mea)が挿入され、これはちょうどペテロの否認のすぐ後なので、歌詞内容としても適切で、優れた構成と言えるでしょう。ブックレットには前述の詳細な解説のほか、歌詞・対訳も収録されているので、資料的価値も高いものです。世界的にも貴重な録音を、日本人演奏家たちの見事な歌唱と詳細な説明でご堪能ください。
 
  

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