必聴傾聴盤紹介~『ブクステフーデ:世の救い主~カンタータ集/フィリップ・ピエルロ&リチェルカール・コンソート』

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『ブクステフーデ:世の救い主~カンタータ集 / フィリップ・ピエルロ&リチェルカール・コンソート』

フィリップ・ピエルロ(ヴィオラ・ダ・ガンバ&指揮)リチェルカール・コンソート
セッション録音:2022年10月10-15日
 ラ・リュセルヌ・ドゥートゥルメール聖三位一体修道院
MIRARE MIR-668 輸入盤

収録情報

ブクステフーデ(1637-1707):

  1. Jesu, meines Lebens Leben(イエスは我が生命の生命) BuxWV 62
  2. Fürwahr, er trug unsere Krankheit(げに彼は我らの病を負い)BuxWV 31
  3. Ich bin die Auferstehung(我は蘇りなり) BuxWV 44
  4. Laudate pueri(主をほめたたえよ)BuxWV 69
  5. Befiel dem Engel, daß er komm(来たれと天使に告げて言え) BuxWV 10
  6. Quemadmodum desiderat cervus(鹿の谷川を慕いあえぐがごとく) BuxWV 92
  7. Herr, ich lasse dich nicht(主よ、我汝を去らじ) BuxWV 36
  8. Herzlich lieb hab ich dich, o Herr(心より我汝を愛す、おお主よ) BuxWV 41

リチェルカール・コンソート
アンナ・バヨディ=イルト&イェツァベル・アリアス(ソプラノ)
ダヴィド・サガストゥーメ(アルト)
ヒューゴ・ハイマス(テノール)
マティアス・フィーヴェク(バス)
ソフィー・ジェント&オーギュスタン・リュソン(ヴァイオリン&ヴィオラ・ダ・ガンバ)
アンナ・ラチェーギ&クレマンス・シルツ、マティアス・フェッレ(ヴィオラ・ダ・ガンバ)
ブノワ・ヴァンダン・バンダン(ヴィオローネ)
ジョヴァンナ・ペッシ(トリプル・ハープ)
ダニエル・サピコ(テオルボ)
ポール・グソ(オルガン)
ガイ・ファーバー&シャヴィエル・ジャンドロー(トランペット)
アドリアン・マビル&ガウェイン・グラントン(コルネット)
フィリップ・ピエルロ(ヴィオラ・ダ・ガンバ&指揮)

 現代ピリオド楽器演奏会の旗手フィリップ・ピエルロとリチェルカール・コンソートによるブクステフーデのドイツ語教会カンタータ集。ドイツ北部の都市リューベックの中心となる教会、聖母マリア教会のオルガニストとして活躍していたブクステフーデは、実質的な音楽監督として、教会での普段の礼拝やアーベントムジーク(夕べの音楽会)という教会でのコンサートで数多くの自作を披露していました。そうした作品の数々をブクステフーデは、スウェーデン宮廷の楽長であり親交のあったグスタフ・デューベンに送っていました。現在ではそのデューベンが所蔵していた音楽関連の蔵書集、通称「デューベン・コレクション」は、ブクステフーデの作品のソースとして質も量も、最も高いものとなっています。このコレクションに収録されたブクステフーデの作品の中で、旧約・新約聖書のドイツ語訳や、16世紀の譜ドイツの宗教詩をテキストとするドイツ語による宗教的歌詞を持つカンタータ(いわゆる教会カンタータ)は大きな位置を占めています。このアルバムにはブクステフーデのそうしたドイツ語による教会カンタータが6曲と、ラテン語による2曲、計8歌曲が収められています。曲によって編成が異なり、声楽部は、宗教コンツェルト様式の独唱のものから、重唱、合唱とさまざまで、器楽もトランペットを伴うものから、ヴァイオリンではなくヴィオラ・ダ・ガンバの合奏を伴うものまで含まれています。ブクステフーデのドイツ語の教会カンタータは、幻想性の高いオルガン作品や、ラテン語による有名な連作カンタータ「われらがイエスの御身」と比べると、シンプルな構成のものが多いのですが、これは聴衆も一緒に歌える部分を含んでいるからではないかと思われます。こうした意味では、ブクステフーデのドイツ語カンタータは、プロテスタント的な教会音楽と呼べるものでしょう。そのシンプルな作風の中にも、器楽合奏などの挿入によって、抒情性や瞑想性を持たせ、楽曲をただ簡素なだけのものにしない点にブクステフーデの非凡さが感じられるでしょう。例えば、BuxWV10は、歌詞の通り、天使が優雅に羽ばたくようなリズムや音型が感じられ、テキストのイメージに合わせた曲作りがなされています。また最後に収められたBuxWV41は、いわゆるコラール・カンタータで、3節に分かれた収録曲中最も規模の大きな作品となっています。重厚な弦楽器のアンサンブルの上で、声楽部分がコラールをまっすぐに歌う清新さは聴き手に感動をもたらします。第1部のソプラノのみのコラールは、当時の聴衆も一緒に歌ったのかもしれません。対照的にラテン語の2曲は独唱と重唱のもので、より高度な声楽技巧が用いられています。特にBuxWV69は舞曲であるシャコンヌが基になっているというユニークな作品となっています。その技巧性には「我らがイエスの御身」を想起させる部分もあります。
 「我らがイエスの御身」の録音(MIR-444、残念ながら現在入手不可)で奇跡的と呼べるほどの超名演を聴かせてくれたピエルロとリチェルカール・コンソートによる演奏だけに、聴く前からその期待は高くなりますが、演奏を聴けば、その期待を超えるほどの名演であることが分かるでしょう。「我らがイエスの御身」の時のメンバーとは歌手陣も器楽陣もかなり異なるのですが、その演奏の質は勝るとも劣らないものです。歌手の出身地は、モロッコ、キューバ、スペイン、イギリス、ドイツとさまざまですが、統一感は損なわれることなく、器楽とも一体となって音楽を作り上げています。5人の歌手の秀逸さが際立ちますが、器楽陣の巧さも驚異的で、特に通奏低音で大事な部分で強い印象を残すダニエル・サピコのテオルボの効果は絶大です。ブクステフーデ作品の最良の録音の一つとして語り継がれる名盤となることでしょう。
 なお、CDジャケット強には、近年レオナルド・ダ・ヴィンチとされ、オークションで4億5千万ドル(当時のレートで500億円強!)という史上最高額を付けたことで世界中の話題をさらった「サルヴァトール・ムンディ(世の救い主)」が用いられています。このアルバムに、主イエス・キリストへの救済の願いが込められたテキストを用いたカンタータが多いことからでしょうか。リチェルカール・コンソートのMIRAREでのCDは名画をトリミングした印象的なジャケットのものばかりですが、このアルバムでも強いインパクトを残すジャケットとなっています。

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