★レザール・フロリサンの40 年にわたる録音活動からシャルパンティエ作品の選りすぐりがボックスで登場!1979 年にクリスティによって設立されたアンサンブル「レザール・フロリサン」。シャルパンティエの音楽劇≪花咲ける芸術≫から名前をとっており、シャルパンティエはクリスティにとって特別な存在であることがわかります。クリスティはこれまでにシャルパンティエの作品を25 ほど録音しております。このたび、最初期の録音も含むかたちで再発売のはこびとなりました。最初期のドミニク・ヴィスの他では得難い歌声、第二期ともいえる時期の中心メンバーであったジェラール・レーヌやモニク・ザネッティらと、体系的にグループの歴史を感じることができます。また≪メデ≫に関してクリスティは2 度録音を行っていますが1984 年の最初の録音が復刻されており、当時のシャルパンティエ再興への熱量が感じられる演奏には圧倒されます。
~シャルパンティエはこれまでも、そしてこれからも、レザール・フロリサンの礎であり続けるのです~と、リュリなどのフランス・バロックも知り尽したクリスティが今なお特別な思いを寄せているシャルパンティエの名録音の数々、ご堪能ください!
ブックレットには、クリスティのインタビュー、および各作品についての解説が掲載されています(日本語訳なし)。歌唱歌詞はハルモニアムンディのホームページに掲載されています。
https://www.harmoniamundi.com/wp-content/uploads/2023/07/8904057.64_tc.pdf
キングインターナショナル
[CD1]
レザール・フロリサンが録音した最初の劇作品≪聖チェチーリアの殉教≫。ラテン語の歌詞の発音ひとつひとつ、楽器編成、すべてが手探りの状態の中、可能な限りの資料にあたり考察を重ねての演奏。”「これがオーセンティックだ」などと言うつもりは毛頭ないけれど、適切な修辞学的、歴史的、言語的な文脈を見つける作業を当時若かった素晴らしい音楽家たちと共同で行えたことはかけがえのない経験だった”とクリスティ自身が振り返る、満を持しての演奏です。宗教に身を捧げたチェチーリア(セシリアとも)の生涯を2部に分けて描いたシャルパンティエの音楽は、非常に典雅。セシリアの最後の場面での音楽による描写は合唱も伴う実に壮麗なもの。音楽にも長けていたというセシリアの物語の美しい音楽描写に心奪われます。
≪放蕩息子≫は1680 年の作、のちにドビュッシーらもとりあげた題材の物語(好き放題をして帰ってきた息子を父はあたたかく迎え入れるというもの)ですが、ナレーターがいて、合唱も場面の中に生きている存在として歌うなど、バッハの受難曲をも思わせる作りとなっており、驚かされます。3声のマニフィカトはフルート通奏低音という小編成ながら、ドミニク・ヴィスの若き歌声も味わいぶかく感じ入る録音です。
[CD2]
=ドミニク・ヴィスの変幻自在な活躍=
狩り、それも鹿狩りは、特にフランス貴族社会における最大の娯楽でした。しかもそれは現代にまで続いている根強い伝統です。牧童の代わりに狩人を主人公としているところにこの作品の特徴が窺われます。テーベの若い狩人アクテオンが鹿狩りに行き、偶然狩りの女神ディアナが水浴びしているところを見てしまいます。怒ったディアナは狩人を鹿の姿に変えてしまい、かれは哀れにも自分が飼っていた猟犬に噛み殺されてしまう――というお話。アクテオンを歌うドミニク・ヴィスの繊細優雅ながらもクセのある歌い方が魅力です。
モリエールの戯曲『強制された結婚』が1672 年に再演された時に、その付帯音楽として書かれたアンテルメードは、前後2 部からなる間奏曲。特別な筋は持たず、時折イヌなどの動物が登場して聴き手を楽しませます。こちらもヴィスが演技心たっぷりに聴かせます。
[CD3,4,5]
=生々しい登場人物のキャラクター、音楽が描く鮮烈な物語。=
「メデ」はシャルパンティエによる唯一の抒情悲劇。1984 年にクリスティとレザール・フロリサンによって行われた復活蘇演により、この「メデ」は今日でも演奏されるようになったといえるでしょう。レザール・フロリサンが発足して間もないころの録音ですが、当初から最高のレヴェルでの演奏を展開していたことにあらためて驚かされる内容です。メデ(メディア) が自分を捨てた男への復讐から自分の息子までをも殺害する物語にシャルパンティエがつけた音楽は、半音階や転調が効果的かつ劇的に用いられたもの。クリスティとレザール・フロリサン、そして名歌手たちの緊張感みなぎる演奏は今なお色あせることがありません。
[CD6]
=胸をしめつけるような不協和音で描くペテロの悲しみ=
イタリアやドイツとは違って、フランスでは受難曲というジャンルに対してそこまでの盛り上がりはありませんでした。このペテロの否認はそうした流れからすると例外的といえます。5 声と通奏低音のみという非常に制約された編成で、最後の合唱では、悔恨の念に駆られたペテロの悲しみが、胸をしめつけるような不協和音で表現されています。
《四旬節のための瞑想》のそれぞれの楽曲は、受難の主役たち(イエス、ユダ、ペトロ、ピラト、聖母マリア、マグダラのマリア)を描いた短い劇的な場面で構成されています。
[CD7-8]
=シャルパンティエの突出した才能=
シャルパンティエはイエズス会に10年間仕え、数多くの宗教的な作品に加え、当時のイエズス会の柱の一つであった「劇」のための音楽も作曲しました。
16 世紀半ばにイエズス会がフランスに設立され、大学が設立されると、生徒たちによる演劇がカリキュラムの一部となりました。最初のうちは、敬虔な題材とラテン語による悲劇や喜劇が上演されましたが、次第にフランス語で歌われる幕間劇やバレエが挿入されるようになりました。その大きな作品のひとつがブルトンノー神父のフランス語台本による『ダヴィデとヨナタン』です。リュリに倣ってプロローグを伴う5 幕のスタイルをとっているように見えて、リュリのプロローグはルイ14世の栄光を讃えるものであるのに対し、シャルパンティエのこのプロローグはいきなり物語の核心で始まります(また、レチタティーヴォがないのもリュリのスタイルとは異なっています)。サムエルの亡霊がサウルに自らの死と息子ヨナタンの死を告げ、ダヴィデがサウルの後を継いでイスラエルの王に即位することを告げるのです。この印象的なプロローグの後、第5 幕を除いて、各幕は登場人物一人ひとりに焦点を当て、彼らの感情や、神との関係、善と悪、公と私という対比が際だてられています。
キングインターナショナル