クラシック聴き比べの楽しみ 第5回~J.S.バッハ:トッカータとフーガ ニ短調 BWV565

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クラシック音楽の醍醐味の一つが聴き比べです。同じ曲でも、異なる演奏で聴けば、かなり違って聴こえることもしばしば。より深く曲に親しむことができます。ここではそうしたクラシック音楽の聴き比べを曲ごとにご提案していきます。

20世紀の大オルガニスト、ヴァルヒャが奏でる荘厳な響き!

バッハ:オルガン名曲集
ヘルムート・ヴァルヒャ(オルガン)

CD ユニバーサルミュージック UCCS-50017 国内盤

【クラシック百貨店】【第1回 器楽曲編】【SHM-CD仕様】【グリーン・カラー・レーベルコート】オルガン曲の代名詞《トッカータとフーガ》、対位法が駆使された《幻想曲とフーガ》、壮大なスケールの《パッサカリアとフーガ》など、バッハの代表的なオルガン作品8曲を収めたアルバム。バッハのオルガン作品全集を2度完成させた20世紀屈指の名奏者ヴァルヒャが、確固たる力強さと崇高な精神で、その真髄に迫ります。
ユニバーサルミュージック

収録情報

J.S.バッハ:

  1. トッカータとフーガ 二短調 BWV565
  2. トッカータ、アダージョとフーガ ハ長調 BWV564
  3. 幻想曲とフーガ ト短調 BWV542《大フーガ》
  4. パッサカリアとフーガ ハ短調 BWV582
  5. フーガ ト短調 BWV578《小フーガ》
  6. コラール《主イエス・キリストよ、われ汝に呼ばわる》BWV639
  7. コラール《いざ来ませ、異教徒の救い主よ》BWV659
  8. コラール《目覚めよと呼ぶ声が聞こえ》BWV645

ヘルムート・ヴァルヒャ(オルガン)
録音:1956年9月(1, 2)、1962年9月(3, 4) オランダ、アルクマール、聖ラウレンス教会シュニットガー・オルガン
1969年9月(6)、1970年5月(5)、1971年5月(7, 8) ストラスブール、聖ピエール・ル・ジュヌ教会ジルバーマン・オルガン


 第4回に引き続きバッハの作品を取り上げます。「トッカータとフーガ ニ短調 BWV565」、そう、「えーっ!」という悲鳴とともに流れるあの曲です。ドラマとかバラエティなどで面白おかしく使われることが多いBGM(というよりもほぼ効果音)として、あまりにも有名な曲です。もちろん有名なのは冒頭のほんの一部。全体では10分ほどかかる壮大なオルガン曲です。
 「トッカータとフーガ ニ短調 BWV565」は、何百曲とあるバッハが作曲したオルガン独奏曲のうちで、最も有名な作品で、「トッカータ」と「フーガ」という2つの部分からなっています。「トッカータ」というのはなにもこの曲を指す固有名詞ではなく、即興的で自由な形式の作品のことを指します。主に鍵盤楽器の作品に使われ、演奏前の指鳴らしや試し弾きのようなものが楽曲の名前として定着しました。バッハも「トッカータ」という名称の鍵盤音楽を何曲も作曲しています。それらは、形にはまらない自由さを持つ即興的要素の強い楽曲ばかりです。また「フーガ」とは、「逃げる」を語源とし、日本語で「遁走曲」と記されます。簡単に言えば、旋律が逃げたり、追っかけたりする曲のことです。
 ちなみにBWVとは「バッハ作品主題目録番号(Bach-Werke-Verzeichnisというドイツ語の頭文字を取っています)のことで、20世紀になってバッハの作品が体系的にまとめられたときに使用された作品番号のことです。バッハは大小千曲以上の作品を残していますから、こうした番号がないと分類できないのですね。
 さて、「トッカータとフーガ ニ短調 BWV565」の「トッカータ」部分も冒頭のあの有名な旋律の後は、すさまじい重低音を響かせながら音楽は劇的な展開をしていきます。大きな教会の大オルガンを弾いた録音が多いですから、強烈な和音が教会中に響き渡る様は圧巻です。また続く「フーガ」の部分は、疾走感にあふれ、聴き手の焦燥感をあおります。演奏によっては、本当に追われているような気分になることもあるでしょう。最後まで聴き手を飽きさせない荘厳さとカッコよさを併せ持つ名作です。
 この曲の、というよりもバッハのオルガン作品の録音の中で最も有名な録音が20世紀ドイツの大オルガニスト、ヘルムート・ヴァルヒャによる演奏です。バッハのオルガン作品全集録音を2回も完成させたバッハ演奏の大権威です。16歳の時に視力を失いますが、懸命な努力と家族の献身的な支援でオルガニストとして大成します。集中力の高い演奏は、現在でもバッハ演奏のお手本とされるものです。「トッカータとフーガ ニ短調 BWV565」も緊張感あふれるふけーるの大きな演奏で一気に聴かせてくれます。このアルバムには、「フーガ ト短調 BWV578《小フーガ》」「コラール《目覚めよと呼ぶ声が聞こえ》BWV645」など他の有名曲も収録されているので、バッハのオルガン曲のファーストチョイスとしてもオススメです。
(山野楽器スタッフ)

冒頭から驚愕!コープマンによる自由度の高い演奏!

『バッハ:オルガン・ベスト!』
トン・コープマン(オルガン)
CD ワーナーミュージック・ジャパン WPCS-22221 国内盤

歴史的オルガンの銘器を起用し時代考証をふまえた、21世紀に残すべき全集のエッセンスを味わって下さい。
コープマンの演奏は、厳格さと自由さとが高度に均衡した優れたものです。
ワーナーミュージック・ジャパン

収録情報

J.S.バッハ:
トッカータとフーガ ニ短調 BWV565 – 00:08:21
トッカータとフーガ ヘ長調 BWV540 トッカータ – 00:08:20
トッカータとフーガ ヘ長調 BWV540 フーガ – 00:04:54
トッカータとフーガ ニ短調 (ドーリア調) BWV538 トッカータ – 00:05:17
トッカータとフーガ ニ短調 (ドーリア調) BWV538 フーガ – 00:07:24
プレリュードとフーガ イ短調 BWV543 – 00:08:50
トリオ・ソナタ ト長調 BWV530 ヴィヴァーチェ – 00:03:45
トリオ・ソナタ ト長調 BWV530 レント – 00:06:44
トリオ・ソナタ ト長調 BWV530 アレグロ – 00:03:26
パッサカリア ハ短調 BWV582 – 00:12:27

[エグゼクティヴ・プロデューサー]マリアンネ・ケッヘ、ヴォルフガング・モーア
[録音プロデューサー]ティニ・マトー
[録音エンジニア]アドリアーン・フェルスタイネン
[録音データ]1994年6月 [10]、1995年7月 [1-9]

トン・コープマン(オルガン)

■ 使用楽器:
ハンブルク、聖ヤコビ教会のアルプ・シュニットガー・オルガン [1-5、7-9]
(Arp Schnitger organ, 1688-1693; St.Jacobi-Kirche, Hamburg)

マーススライス、大教会のルドルフ・ガレルス・オルガン [6、10]
(Rudolf Garrels organ, 1729-1732; Grote Kerk, Maassluis)

 「トッカータとフーガ ニ短調 BWV565」の旋律を頭に描いて聴き始めると、冒頭から「えっ」と驚かされること必至!とにかくまずは聴いていただきたいのが、トン・コープマンの演奏です。
 トン・コープマンは、1944年オランダ生まれの鍵盤奏者、指揮者で、現代におけるバッハ演奏の権威の一人でもあります。自身が創設したアムステルダム・バロック・オーケストラを率いて来日公演を行ったり、客演指揮者としてNHK交響楽団を指揮したりと日本でもお馴染みの存在で、多くのファンを獲得しています。またバッハ・コレギウム・ジャパンの鈴木雅明、他、その薫陶を受けた日本人演奏家も数多くいます。
 さてコープマンの演奏の特徴はその自由自在さ。時に奔放とも思えるほど即興的装飾を加え、作品の色彩を鮮やかにしていきます。もしバッハが聴いてもいいねと楽しんでもらえるような演奏を心がけているそうです。その演奏の自由度は、「トッカータとフーガ ニ短調 BWV565」の冒頭に端的に表れています。コープマンの演奏は、とにかくバッハの音楽を奏でる喜びに満ち溢れていて、聴いていると思わず笑顔になってしまうほど楽しいものです。全体的な雰囲気もヴァルヒャとはかなり異なるので、どちらも聴くことで、いろいろな解釈を許容できるバッハの作品の懐の深さを感じることができるでしょう。
(山野楽器スタッフ)

「トッカータとフーガ」がヴァイオリン独奏に!

『エンリコ・オノフリ~バロック・ヴァイオリンの奥義』
エンリコ・オノフリ(バロック・ヴァイオリン)
CD Anchor Records UZCL-1003 国内盤

「世界最高のバロック・ヴァイオリニスト」と評される、イタリアのバロック・ヴァイオリン奏者、エンリコ・オノフリ(イル・ジャルディーノ・アルモニコ コンサート・マスター)が、世界初録音のオノフリ編曲版《バッハ:トッカータとフーガ ニ短調(ヴァイオリン独奏版)》を中心に、現代では既に忘れ去られてしまったバロック・ヴァイオリンの《奥義》、《秘技》の数々を縦横無尽に駆使してバロック・ヴァイオリン音楽の超有名曲の数々を弾きまくる!!コアなクラシックファンも驚嘆するであろう必聴盤です!!
Anchor Records

収録情報
  1. J.S.バッハ:トッカータとフーガ ニ短調
    (ヴァイオリン独奏オノフリ編曲版/世界初録音)
  2. タルティーニ:ソナタ第10番 ト短調《すてられたディドーネ》
  3. テレマン:幻想曲第1番 変ロ短調
  4. ビーバー:パッサカリア
  5. テレマン:2つのヴァイオリンのための《ガリヴァー組曲》
    (第2ヴァイオリン:杉田せつ子)
  6. テレマン:幻想曲第9番 ロ短調
  7. タルティーニ:パストラーレ

ボーナス・トラック
バッサーノ:リチェルカータ
(2009年6月、イタリア、クレマにて録音)

エンリコ・オノフリ(バロック・ヴァイオリン)

 とてもよく知られた「トッカータとフーガ ニ短調 BWV565」ですが、実はもともとはオルガン作品ではないのではないか、という疑惑があるというと驚かれるでしょうか。しかももしかしたら、バッハの作品でさえないかもしれないという偽作説まであるのです。自筆譜がなく、他のバッハの作品と比べて異色な部分が多い、などがその理由のようですが、バッハの代表曲の一つともされる、これだけ有名な作品が実はバッハの作品ではなかったとなったら、いったいどうなってしまうのでしょうか。現在は、この問題は決着が付いていないようですが、もともとはオルガン曲ではなかったという説に基づいて、ヴァイオリン独奏用作品として復元し、録音するという試みがなされ、いくつかの録音が登場しています。
 このアルバムはそのうちの一つで、現在、バロック・ヴァイオリンの第一人者として称賛されるイタリアのエンリコ・オノフリによる演奏です。「トッカータとフーガ ニ短調 BWV565」は、エンリコ・オノフリ自身の編曲による世界初の録音となっています。この曲が、たった1本のヴァイオリンで演奏される驚きと言ったらありません。オノフリの驚異的な技術は、まさにアルバムタイトル通り「バロック・ヴァイオリンの奥義」と呼ぶにふさわしいものです。この曲の原型を探る実に興味深い試みと言えるでしょう。
 ちなみにこのアルバムには、他にも高い技術を要求されるバロック時代のヴァイオリン曲が収録されていますので、バロック・ヴァイオリンの色彩豊かな響きやバロック時代のヴァイオリン音楽の面白さを知るに格好の1枚でもあります。
(山野楽器スタッフ)

おまけ

「トッカータとフーガ ニ短調 BWV565」はあらゆるジャンルでアレンジされています。その中で最もこの作品の名前を広めたのは、ディズニー映画「ファンタジア」(1940年)ではないでしょうか。大指揮者レオポルト・ストコフスキーが終始シルエットで指揮、そこにアニメーションが映像効果のように加わる、今見ても斬新な映像とこの曲が結びついている方もいらっしゃるのではないでしょうか。ここでは、大オーケストラ用に編曲されています。映画のオリジナル・サウンド・トラックにも、もちろん収録されています。
『ファンタジア(オリジナル・サントラ リマスター盤)』(UWCD-8038/9)

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