クラシック聴き比べの楽しみ 第4回~J.S.バッハ:ゴルトベルク変奏曲

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クラシック音楽の醍醐味の一つが聴き比べです。同じ曲でも、異なる演奏で聴けば、かなり違って聴こえることもしばしば。より深く曲に親しむことができます。ここではそうしたクラシック音楽の聴き比べを曲ごとにご提案していきます。

「ゴルトベルク変奏曲」の代名詞的録音!グレン・グールドによる1981年盤

バッハ:ゴールドベルク変奏曲(1981年ステレオ録音)
グレン・グールド(ピアノ)

CD ソニー・クラシカル SICC-40052 国内盤

1955年にこの作品のセンセーショナルなパフォーマンスを収めたアルバムでデビューを飾ったグレン・グールドは、26年ぶりに斬新で魅惑的なこのデジタルによるステレオ・スタジオ再録音を残し、唐突に世を去りました。まさに鬼才・グールドの墓碑銘といえる永遠の名盤です。
ソニー・クラシカル

収録情報

ヨハン・セバスティアン・バッハ:ゴールドベルク変奏曲

グレン・グールド(ピアノ)

録音:1981年4月、5月 ニューヨーク、30丁目スタジオ
DSDマスタリング


 クラシック作曲家の人気ランキングでは、第1位となることが多いヨハン・セバスティアン・バッハ。「主よ、人の望みの喜びよ」「G線上のアリア」「トッカータとフーガ」など、誰もが耳にしたことのある音楽を作曲し、その楽曲は現代でもさまざまな形で毎日のように聴こえてきます。
 バッハ(1685-1750年)が生きた時代は今から250~300年ほど前。日本で言えば、江戸時代中期に当たります。今でこそ、最高の知名度を誇る作曲家でしたが、当時はヴィヴァルディやヘンデルら同時代の作曲家がヨーロッパ中にその名を轟かせていたのに対して、バッハはいちドイツの作曲家に過ぎませんでした。終生ドイツから出ることがなく、ドイツ各都市でオルガニストや教会の音楽家や都市の音楽監督として活動していたバッハですが、楽譜などで伝わるイタリアやフランスなどの他国の音楽を熱心に研究し、最先端の音楽にも触れ、自らの作曲の糧としていました。残された作品の数々は、紆余曲折を経ながらも現代まで生き残り、多くの人々を魅了してきたのです。
 さて、バッハの代表作の一つが晩年に作曲された「ゴルトベルク変奏曲」です。実は、この名前、バッハが付けたわけではありません。バッハ自身は出版譜に「2段鍵盤付きクラヴィチェンバロのためのアリアと種々の変奏」というちょっと味気ないタイトルしか付けていないのです。「ゴルトベルク変奏曲」の名前は、バッハの音楽の生徒だったカイザーリンク伯爵が不眠症だったため、その解消策としてこの変奏曲を作曲し、ゴルトベルクという弟子に弾かせたという逸話から付けられたとされています。「不眠症解消のための音楽」というのも実話ではなく、エピソードに過ぎないのですが、バッハの死後は「ゴルトベルク変奏曲」という名前で知られるようになっていきます。冒頭のアリアを30の変奏にし、また最後にアリアに戻るというこの作品は、バッハが作曲法の粋を込めた代表作となったのです。
 さて、この曲の録音は超有名作曲家バッハの代表作ゆえに、現代のピアノによる演奏、バッハが弾いていた楽器であるチェンバロによる演奏、その他の楽器によってさまざまに編曲した演奏など、とてつもない数の録音が存在しますが、代表的録音と言えば、40年来、カナダ出身の不世出のピアニスト、グレン・グールドによる死の直前の1981年に録音された盤が筆頭に挙げられています。バッハの鍵盤音楽の演奏に生涯を捧げ、バッハの音楽の魅力を伝えてきたグレン・グールドの最後の録音です。まさに不朽の名盤の名をほしいままにしています。「ゴルトベルク変奏曲」の録音を語る上で絶対に欠かせない歴史的名盤です。
(山野楽器スタッフ)

グレン・グールドの記念すべきデビュー盤もゴルトベルク変奏曲!1955年モノラル録音

『バッハ:ゴールドベルク変奏曲』(55年モノラル録音)
グレン・グールド(ピアノ)
CD ソニー・クラシカル SICC-40051 国内盤

その後数々の伝説をつくりあげることになるピアニスト、グレン・グールドの記念すべきデビュー・アルバムは、モノラル録音によるバッハの「ゴールドベルク」です。このアルバムにおける演奏は、当時の、そしてもちろん現代の聴き手の心を確実に捉えて離さないものです。グールドといえば「バッハ」であり、そして「ゴールドベルク」ですが、彼のすべての表現の第一歩となったこの録音を聴かずしてグールドは語れません。「ゴールドベルク」に始まり、「ゴールドベルク」に終わった彼のディスコグラフィのなかでも、もっとも重要な1枚です。
ソニー・クラシカル

収録情報

ヨハン・セバスティアン・バッハ:ゴールドベルク変奏曲

グレン・グールド(ピアノ)

録音:1955年6月 ニューヨーク、30丁目スタジオ(モノラル)
DSDマスタリング

 グレン・グールドの最後の録音が「ゴールドベルク変奏曲」でしたが、デビュー・アルバムも「ゴールドベルク変奏曲」でした。若き日のグールドのみなぎるエネルギーが詰まった演奏です。同じ演奏家といえども、特にテンポの点など、1981年録音とはまた違った演奏になっています。また録音もモノラルとステレオの違いがありますので、聴く比べに最適です。グレン・グールドのアルファとオメガを飾る「ゴールドベルク変奏曲」。まずはグールドの2つの録音から聴き比べてみてください。
 ちなみに、一般的にはこの作品の日本語表記は「ゴルトベルク」変奏曲ですが、グレン・グールドの盤は「ゴールドベルク」変奏曲と日本語表記されています。「GOLDBERG」の日本語での表記ゆれですが、現在では、比較的ドイツ語発音に近いとされる「ゴルトベルク」が用いられることが通常です。
(山野楽器スタッフ)

「現代のバッハ」レオンハルトによる記念碑的名演!

『バッハ:ゴルトベルク変奏曲』
グスタフ・レオンハルト(チェンバロ)
CD ワーナーミュージック・ジャパン WPCS-21071 国内盤

不眠症に悩む伯爵のために書いたと伝えられるバッハ晩年の大作。
1曲の中に広大な宇宙の神秘が感じられる不朽の名曲です。
古楽器演奏のパイオニアであり、神格的な存在であり続けるチェンバリスト=レオンハルトの最初の記念碑となった名録音。楽器製作の天才スコヴロネックによるチェンバロの深みのある音色を十全に生かした高い見識と品格に満ちた演奏です。
ワーナーミュージック・ジャパン

収録情報

ヨハン・セバスティアン・バッハ:ゴルトベルク変奏曲

グスタフ・レオンハルト(チェンバロ)

録音:1964年頃

 ピアノで演奏されることの多い「ゴルトベルク変奏曲」ですが、バッハが生きていた時代に現代で弾かれているピアノは存在していませんでした。バッハの最晩年になってやっとその原型と言えるものが登場し、老境のバッハがその楽器を弾いて感想を伝えたというエピソードが残っています。ピアノ以前に主に弾かれていた鍵盤楽器はチェンバロ(ハープシコード、クラヴサンとも)です。楽器自体は、似たような形状ですが、ピアノがハンマーで弦を叩く機構なのに対し、チェンバロは弦をはじく機構なので、その音色はずいぶんと異なります。バッハは主にこのチェンバロを使って作曲し、音楽を奏でていたのでした。「ゴルトベルク変奏曲」は、鍵盤が2段あるチェンバロを想定して作曲されていて、変奏ごとに1段で弾くか、2段で弾くかが指定されています。
 古楽演奏の隆盛とともに、チェンバロは現代でも弾かれるようになり、所蔵するコンサートホールも増加してきており、いまや珍しい楽器ではありません。こんな説明を書かずとも実際に耳にされる機会も増えてきていると思います。もちろんチェンバロで弾いた「ゴルトベルク変奏曲」の録音も、いまやピアノでの録音に引けを取らないほど増えてきています。
 そうしたチェンバロでの録音の代表的な演奏がグスタフ・レオンハルトによる演奏です。レオンハルトは現代における古楽復興の立役者の一人で、バッハ演奏・研究の世界的権威でした。映画でバッハ役を演じたこともあり、「現代のバッハ」と称賛されました。レオンハルトが弾くバッハの鍵盤音楽の数々の録音は、作品と真摯に向き合う格調高いもので、バッハの作品の深遠を示しています。この「ゴルトベルク変奏曲」は、1960年代中盤に録音された古いものですが、その格調高さは今を持っても色褪せません。現代のチェンバロ製作の名工、スコヴロネックの楽器の音色も聴きものです。数多くの「ゴルトベルク変奏曲」の録音の中のスタンダードと呼べる記念碑的な録音です。
(山野楽器スタッフ)

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