必聴傾聴盤紹介~『マラン・マレ:作品集』

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マラン・マレ:作品集

ジャン=ギアン・ケラス(チェロ/ジョフレド・カッパ、1696年製)
アレクサンドル・タロー(ピアノ/YAMAHA CFXグランドピアノ)
ギョーム・カリエンヌ(コメディ・フランセーズ会員/朗読:9)

マラン・マレ(1656-1728):作品集
1. プレリュード*
2. ガヴォット*
3. ミュゼット(ヴィオール曲集第4 巻、組曲イ短調より)
4. スペインのフォリアのクプレ(ヴィオール曲集第2 巻より)
5. ラ・レヴーズ(夢、夢想、夢見る女)(ヴィオール曲集第4 巻、異国趣味の組曲より)
6. ファンタジー*
7. グラン・バレ*
8. サラバンド*
9. 膀胱結石手術図(ヴィオール曲集第5 巻)
10. クーラント*
11. 作者不詳(伝:マラン・マレ):Les Regrets(後悔)(ヴィオール曲集第2 巻 組曲ホ短調より)
12. プレリュード(ヴィオール曲集第2 巻 組曲ニ短調より)
13. サラバンド・グラーヴ(ヴィオール曲集第2 巻 組曲ニ短調より)
14. きわめて速く- 遅く(マレ風ソナタ)
15. ル・バディナージュ(ヴィオール曲集第4 巻、異国趣味の組曲より)[ピアノ・ソロ編曲]
16. ジグ – ドゥーブル*
17. アルマンド*
*=ヴィオール曲集第3 巻 組曲イ短調より
 ジャン=ギアン・ケラスとアレクサンドル・タローという名手二人によるマラン・マレのアルバムです。マラン・マレはフランス・バロックの作曲家でヴィオール(ヴィオラ・ダ・ガンバ)の名手としてルイ14世の宮廷に仕えました。「天使のように弾く」とされたマレの残したヴィオールのための作品は、ヴィオールという楽器の特性を生かした極めて質の高いものばかりで、現代のヴィオラ・ダ・ガンバ奏者にとってマレの作品を録音することはその試金石となっていて、現代のヴィオラ・ダ・ガンバの重鎮であるサヴァールや鬼才パンドルフォをはじめとして、名だたる名手たちが録音を発表しています。しかしこれまで、チェロとピアノだけでマレの作品集が出されることはなかったと思います。いくら音域が近いからと言って、ヴィオラ・ダ・ガンバの作品をチェロで演奏することはそれほど単純なことではありません。むしろヴィオラ・ダ・ガンバ特有の表現をどのようにチェロに「翻訳」するかは、技術的に苦労の多いところだと思います。それをケラスとタローの名コンビは見事な解釈と演奏法で乗り越え、完璧なチェロとピアノのための現代のレパートリーとしてマレの作品を演奏しているのです。例えば、麻酔なしで行ったという自身の恐怖体験を楽曲にしたという奇作『膀胱結石切開手術図』の表現では、ケラスの引き裂くようなチェロとタローのピアノの強烈な痛みが伝わるような低音の表現が怖いほど。チェロとピアノである利点を存分に生かして、ヴィオラ・ダ・ガンバとチェンバロ特有の表現をうまくチェロに変換しているように思えます。さすが、ケラス&タロー!
 これまでマレのヴィオール作品は、ヴィオラ・ダ・ガンバでこそ、その真価を発揮すると思っていましたが、チェロとピアノでもその音楽の本質をとらえることはでき、ヴィオールでの演奏では聴けないマレ作品の魅力が発掘されている気さえしてきます。バッハの鍵盤作品が現代のピアノで弾かれるのが当たり前のように、マレの作品も現代のチェロのレパートリーとして確固たる地位を得る時がすぐにやってくるかもしれません。ヴィオールでのすばらしい録音もたくさんありますので、そうした名盤とこのケラス&タロー盤を聴き比べるのもとても有意義なことだと思います。それによってヴィオールとチェロの演奏の優劣をつけるのではなく、表現としてどのような差異があるのかを知ることによって、本当の意味でマレの作品の本質に触れられるのではないでしょうか。

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