必聴傾聴盤紹介~『モラレス:ミサ「千々の悲しみ」、他/デ・プロフンディス』

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『クリストバル・デ・モラレス:ミサ「あの方に伝えて」&ミサ「千々の悲しみ」/デ・プロフンディス』

イーモン・ドゥーガン&ロバート・ホリングワース指揮デ・プロフンディス
録音:2022年5月2‐4日ロンドン、ハムステッド・ガーデン・サバーブ、セント・ジュード・オン・ザ・ヒル教会録音
HYPERION CDA68415 輸入盤 
輸入盤に付き、日本語解説は付属していません。

曲目詳細

①ジョスカン・デ・プレ:千々の悲しみ
②クリストバル・デ・モラレス:ミサ「千々の悲しみ」
③クリストバル・デ・モラレス:第1旋法のマニフィカト
④作曲者不詳(16世紀スペインの作曲家):あの方に伝えて
⑤クリストバル・デ・モラレス:ミサ「あの方に伝えて」
①②③ロバート・ホリングワース指揮デ・プロフンディス
⑤イーモン・ドゥーガン指揮デ・プロフンディス
①④マルタ・マクロリナン(アルト)⑤グレゴリ・ドロット(オルガン)
①リンダ・セイス(リュート)④リンダ・セイス(ビウエラ)

 ヨーロッパのルネサンス音楽をオリジナルの低いピッチで歌唱する、イギリスの優れた声楽アンサンブル、デ・プロフンディス(詩篇のタイトルで「深き淵より」の意味)。最上声部を男性ファルセット歌手(カウンターテナー)が務め、当時の演奏習慣に近いオーセンティックな歌唱を目指しています。これまでに、アンドルー・パロット(タヴァナー・コンソート&プレイヤーズ主宰)、アンドルー・カーウッド(カーディナルス・ミュージック主宰)、デイヴィッド・スキナー(アラミレ主宰)、ジェルミー・サマリー(オックスフォード・カメラータ主宰)ら、ルネサンス音楽演奏の大家たちと共演を重ね、HYPERIONで、スペイン・ルネサンスの作曲家たちの興味深いアルバムをリリースしています。
 今作は、これまで同様スペイン・ルネサンスの作曲家で最も有名な作曲家の一人、モラレスにスポットが当てられたアルバムです。イ・ファジョリーニを主宰するロバート・ホリングワースと、ザ・シックスティーンのアソシエイト・コンダクターであるイーモン・ドゥーガンの二人の指揮者との共演です。
 モラレスは、黄金時代のスペインの作曲家の中の第1世代で、ゲレーロやビクトリアと並ぶスペイン・ルネサンスの3大作曲家の一人とされています。スペインに生まれ、30代でローマに渡り、約10年間、教皇庁で職を得て、歌手や作曲家として活躍しました。数多くの教会音楽を残しましたが、中でも有名な作品が、このアルバムに収められている、ジョスカン・デ・プレの有名なシャンソン「千々の悲しみ」を基としたミサ曲「千々の悲しみ」です。これはジョスカン・デ・プレのシャンソン「千々の悲しみ」を好んでいた神聖ローマ皇帝カール5世のために作られたとされています。美しくそこはかとない悲哀の雰囲気をまとったこのシャンソンの魅力を、ミサ曲に生かしたモラレスの残した最高傑作です。
 またもう一つのミサ曲「あの方に伝えて」は、スペイン・ルネサンス時代の流行歌「あの方に伝えて(「騎士に告げよ」の名前でも知られる)」を基にしたミサ曲で、スペイン情緒に満ちた佳品となっています。
 このアルバムには、それぞれのミサとその基になった歌曲、加えて第1旋法のマニフィカトまで収録。しかもミサ「千々の悲しみ」は一般的な1544年版での歌唱に加えて、1535/1537年の初稿版も異稿部分も収録するという凝った構成になっています。「千々の悲しみ」の原曲は女性も加えた4声で、「あの方に伝えて」は女性歌手(アルト)の独唱で歌われ、それぞれリュートやビウエラが加わっています。またミサ「あの方に伝えて」では、オルガンを伴奏として用いる点も注目です。
 男性声楽アンサンブルのデ・プロフンディスは、最大でカウンターテナー6人、テノール6人、バリトン3人、バス4人という比較的大人数での歌唱となっていますが、その精度は抜群。イタリアでフランドル楽派の影響を受けながらもスペイン的情緒を失わなかったモラレスの個性を存分に楽しませてくれます。ミサ曲「千々の悲しみ」は、以前、ヒリヤード・アンサンブルによる超名演(スペインALMAVIVAレーベル。残念ながら廃盤)がありましたが、デ・プロフンディスによる歌唱はそれに匹敵するすばらしいものです。またリュートとビウエラにイギリスのベテラン、リンダ・セイスも参加している点も注目点です。モラレスのアルバムとして、最上級の内容ですので、モラレス入門にもオススメの一枚です。
 またCDジャケットは、若き日のカール5世を描いたフランドルの画家ベルナール・フォン・オルレイ(1487?-1541)による肖像画。音楽好きとして知られたカール5世の肖像画は、CDジャケットによく使用されますが、この肖像画が使用されるのは珍しいことのようです。
  

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