アーティスト特集~フランチェスコ・コルティ~『ヘンデル:「アポロとダフネ」&「見捨てられたアルミーダ」』

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『ヘンデル:「アポロとダフネ」&「見捨てられたアルミーダ」』

ヘンデル:
序曲HWV336
カンタータ「見捨てられたアルミーダ」HWV105
歌劇「アルミラ」組曲HWV1~序曲
カンタータ「アポロとダフネ」HWV122
歌劇「アルミラ」組曲HWV1~シャコンヌ、ブーレ、メヌエット、リゴードン(アフリカ人の踊り)、サラバンド(アジア人の踊り)、リトルネッロ

キャサリン・レウェク(ソプラノ):アルミーダ&ダフネ
ジョン・チェスト(バリトン):アポロ
フランチェスコ・コルティ(指揮&チェンバロ)イル・ポモ・ドーロ
セッション録音:2020年1月20-24日/ロニゴ、ヴィッラ・サン・フェルモ(イタリア)

PENTATONE KKC6477
輸入盤国内仕様

 今、最も注目を集めるチェンバロ奏者であり、指揮者としても優れた録音を残しているフランチェスコ・コルティと彼が首席客演指揮者を務めるイル・ポモ・ドーロによるヘンデルの傑作カンタータ2編。いずれもヘンデル20代前半の作品で、野心あふれる革新的な音楽づくりが特徴となっています。コルティはこのカンタータ2編に、作曲年代を同じくする序曲を合わせた意欲的プログラムで、アルバムとしての完成度を高めています。
 故郷のドイツのハレを離れ、大きな野心を抱いてイタリアへ移住した若きヘンデルが、イタリアで作曲したイタリア語によるカンタータは、ストラデッラやアレッサンドロ・スカルラッティらの先輩作曲家たちの作曲技法を吸収し、登場人物の感情を鋭く表現した名作ぞろいで、当時から高い評価を得ていました。そんなヘンデルのイタリア語のカンタータの中でも傑作中の傑作とされるのが、「見捨てられたアルミーダ」HWV105。題材は、トルクァート・タッソの「解放されたエルサレム」の登場人物である魔女アルミーダです。台本は、タッソのテキストをそのまま使用しているわけではなく、魔女アルミーダというキャラクターに注目したものとなっています。当時の一般的なイタリア語カンタータは、通奏低音上で歌手が歌うレチタティーヴォから開始されるのですが、ヘンデルはこの楽曲で、通奏低音なしの2声のヴァイオリンのみを用いた伴奏の上で、歌手にレチタティーヴォを歌わせるという聴き手の意表を突く曲の開始を採用しています。アルミーダの心情を反映した卓越した冒頭で、この部分だけでも若きヘンデルの才能を感じることができるでしょう。
 また「アポロとダフネ」は、イタリアで計画されましたが、イタリアを離れた後、ドイツで完成されたとされる作品で、アポロとダフネという二人の登場人物によるカンタータというよりも、小さな歌劇と呼べる大作です。ローマの詩人オウィディウスの「変身物語」のエピソードを題材としたもので、ダフネに熱烈な愛情表現を示すアポロとそれを拒絶するダフネのやり取りで構成されていますが、場面ごとに変化する二人の感情を音楽で見事に表した名作です。
 アルミーダとダフネを歌うキャサリン・レウェクは、世界の歌劇場で活躍するコロラトゥーラ・ソプラノで、去りゆくリナルドに強烈な感情を抱き、海に嵐を起こす魔女アルミーダの心情を、アポロの情熱的なアプローチをことごとく拒否する乙女ダフネの潔癖さを圧巻のテクニックと感情表現で歌っています。アポロを歌うバリトンのジョン・チェストもアポロの自己顕示欲の強さやしつこさ、慈悲深さなどを場面ごとに見事に描き分けています。そしてコルティ率いるイル・ポモ・ドーロの器楽陣が登場人物の感情を煽るような強烈な演奏を展開。若きヘンデルの才能あふれる野心作を、圧倒的な演奏で聴くことのできるすばらしいアルバムとなっています。日本語解説には、原文解説の日本語訳と歌詞対訳に加え、日本語独自の解説も付属しています。特に「アポロとダフネ」はCDとしては国内盤の現役盤はなく、過去にも1点しか発売されていないので、対訳も貴重です。若きヘンデルの才能を知る格好の一枚でしょう。

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