アーティスト特集~バンジャマン・アラール~『J.S.バッハ:鍵盤のための作品全集Vol.8~~ケーテン、1717-1723、マリア・バルバラに捧げる』

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『J.S.バッハ:鍵盤のための作品全集Vol.8~~ケーテン、1717-1723、マリア・バルバラに捧げる』

1-4. ソナタ ニ短調 BWV 964〔I. アダージョ II. フーガ。アレグロ III. アンダンテ IV. アレグロ〕(原曲:ヴァイオリン・ソナタ第2番 イ短調 BWV 1003)
5.シャコンヌ ニ短調 (原曲:ヴァイオリン・パルティータ第2 番 ニ短調 BWV 1004 第5曲)
6-7.プレリュードとフーガ(原曲:ヴァイオリン・ソナタ 第1 番 ト短調 BWV 1001 第2 曲)
8.アダージョ ト長調 BWV 968(原曲:ヴァイオリン・ソナタ第3 番 ハ短調 BWV 1005 第1 曲)
9.ペダル練習曲 ト短調 BWV 598*
10.ファンタジア ト短調*(ファンタジーとフーガ BWV 542より)

バンジャマン・アラール

[CD1]および[CD2&3]インヴェンション&シンフォニア:クラヴィコード、2018 年エミール・ジョバン製/1773 年クリスティアン・ゴットフリート・フリーデリキ製~
*が付いているものはケンティン・ブルーメンレーダーによるペダル・ボードを使用して演奏
[CD2&3]プレリュードと組曲:ヨアンネス・クシェ製のチェンバロ(1720 年頃フランソワ=エティエンヌ・ブランシェ鑑定)、Musée instrumental de Provinsコレクション
録音:2021 年6月(プレリュード、組曲)および12月(インヴェンションとシンフォニア、その他の作品)

harmonia mundi KKC6714(3CD) 
輸入盤国内仕様 2023年8月中旬発売予定

 バンジャマン・アラールが進める画期的なバッハの鍵盤作品全集の第8弾は、最初の妻マリア・バルバラに関する作品を集めています。音楽家として活躍したバッハ一族の一人、ヨハン・ミヒャエル・バッハの娘で、ヴィルヘルム・フリーデマン、カール・フィリップ・エマヌエルの母親であったマリア・バルバラは、バッハにとって又いとこでした。おそらく父親から音楽教育を受けていたので、音楽的素養も高く、1707年に結婚してから、バッハとの仲も睦まじいものだったそうです。しかしマリア・バルバラは、1720年にバッハが旅行中に急死してしまい、バッハが帰郷した際にはすでに埋葬が終わっていたそうです。マリア・バルバラの死はバッハに大きな悲しみを与えました。無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番BWV1004の最終楽章『シャコンヌ』は、マリア・バルバラの追悼曲とされることもあります。このアルバムには、そうしたことからか、『シャコンヌ』をはじめとするヴァイオリン独奏曲のチェンバロ編曲版を収録しています。解説内では、『シャコンヌ』はマリア・バルバラ存命時には作曲されていたのではないかという説が述べられていますので、無伴奏ヴァイオリン作品群は、バッハにとってマリア・バルバラとの思い出が詰まったものなのかもしれません。また『インヴェンションとシンフォニア』は、作品としてまとまったのはマリア・バルバラの死後のようですが、原曲が『ヴィルヘルム・フリーデマンのための小曲集』に含まれており、バッハやマリア・バルバラが我が子の音楽教育にこの曲集を用いていたのかもしれません。『フランス組曲』も1722年頃の作曲とされ、後妻であるアンナ・マグダレーナのための作品とされますが、マリア・バルバラが存命中にその原型があったのかもしれません。フランソワ・クープランの作品の楽譜がバッハ所蔵の楽譜から見つかっていることもあって、そこから想を得てこの曲集を作り上げていったのかもしれません。アラールはここでフランス組曲の合間に、クープランの『クラヴサン奏法』からのプレリュードを収録することでそのことを示しているようです。
 アラールは、この録音で、チェンバロとクラヴィコードを使い分け、演奏しています。『インヴェンションとシンフォニア』をクラヴィコードで弾くことで、まさにバッハの家でバッハや家族が演奏する様が再現されているかのようです。いくつかの作品ではペダルの付いたクラヴィコードを使用して、よりダイナミックな表現が聴けます。クラヴィコードは鍵盤を押し込むことで、ヴィブラートのように音を揺らすことができるので、アラールは、このクラヴィコード独特の機能を巧みに使って感情を揺さぶるエモーショナル表現を意識しているように感じられます。『フランス組曲』の演奏では、歴史的銘器を使用して、舞曲のイメージを明確にしています。フランス音楽、特にクープランからの影響は、いくつかの組曲の前にクープランの『クラヴサン奏法』からのプレリュードを挿入することでより明快な輪郭を持って提示されています。フランス音楽の特長をバッハがどのように自作に取り込んで行ったかが大変分かりやすくなっていることも特筆すべきことでしょう。『インヴェンションとシンフォニア』も『フランス組曲』もBWVの曲順ではなくアラール独自のこだわりが感じられます。演奏・構成・使用楽器と隅々までこだわったアラールのバッハは、やはり聴き逃せません。

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