アーティスト特集~フランチェスコ・コルティ~『オルリンスキ/アニマ・エテルナ』

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『オルリンスキ/アニマ・エテルナ』

ヤン・ディスマス・ゼレンカ(1679-1745):
   モテット『野蛮、残忍にして冷酷な』ZWV.164
ヨハン・ヨーゼフ・フックス(1660-1741):
   『救済の泉』Op.23~「Non t’amo per il ciel」
ヤン・ディスマス・ゼレンカ(1679-1745):
   詩篇『われは喜びに満ちたり』ZWV.90
フランシスコ・アントニオ・デ・アルメイダ(1702-1755):
   『ジュディッタ』~「Giusto Dio」
バルトロメオ・ヌッチ(1717-1749):
   『ダヴィデは凱旋する』~「Un giusto furore che m’arde nel core」
ジェンナーロ・マンナ(1715–1779):
   『ほめたたえよ、神のしもべたちよ』
ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデル(1685-1759):
   アンティフォン ニ短調『アレルヤ、アーメン』HWV.269

ヤクブ・オルリンスキ(カウンターテナー)
ファトマ・サイード(ソプラノ:ZWV.90)
フランチェスコ・コルティ(指揮&通奏低音)イル・ポモ・ドーロ

ERATO 9029674390
輸入盤
※輸入盤につき、日本語解説は付属していません。

 今や人気・実力ともに世界最高峰のカウンターテナーとなったポーランド出身のヤクブ・ヨゼフ・オルリンスキのセカンド・アルバム『アニマ・エテルナ(永遠の魂)』はフランチェスコ・コルティ率いるイル・ポモ・ドーロとの共演。主に18世紀の宗教的楽曲を集めたアルバムで、選曲がかなり凝っています。ボヘミアの鬼才ゼレンカの独唱・重唱モテット、対位法の巨匠フックスや、ポルトガルの天才作曲家アルメイダのオラトリオからのアリア、ヌッチやマンナという知られざる作曲家の世界初録音となる楽曲、そしてヘンデル晩年の小品まで、こだわりのプログラムで聴かせてくれます。冒頭のゼレンカの『野蛮、残忍にして、冷酷な』ZWV164からして驚かせてくれるのです。ファゴットが大活躍する予想外の前奏に続き、オルリンスキは余裕しゃくしゃくとした美声で、ゼレンカのある意味突拍子もない音の跳躍を伴う旋律を軽々と歌います。ゼレンカの曲とも相まってアルバムの最初から強烈なインパクトを与え、聴き手をその音楽世界へと引きずり込みます。フックスの『救済の泉』、アルメイダの『ジュディッタ(ユディット)』、ヌッチの『ダヴィデは凱旋する』というオラトリオのアリアでは、その役柄にあった個性付けを表現する多彩な歌唱を聴かせてくれます。ゼンレンカの詩篇をテキストとしたソプラノとの重唱モテット『Laetatus sum(我は喜びに満ちたり)』ZWV90では、エジプト出身の若き実力派ソプラノ、ファトマ・サイードとの美しい重唱が聴けます。マンナの詩篇モテット『ほめたたえよ、神のしもべたちよ』では、シンプルな合唱も加わり、アルバムを盛り立て、最後のヘンデルの佳品で締めくくります。オルリンスキが作り出す世界に魅了されること請け合いです。
 多様な収録曲の中では何と言っても、ゼレンカの作品が異彩を放ちます。旋律線の過度な跳躍、リズムの変化と意外性あふれる作品なのに、きっちりと曲をまとめる抜群の作曲家能力が聴ける2曲で、オルリンスキのすばらしいテクニックと、天才コルティ率いるイル・ポモ・ドーロのエネルギッシュで表現に満ちた器楽陣によって、ゼレンカの魅力が前回となっているのです。この2曲だけでゼレンカという鬼才の作品にノックアウトされること請け合いです。フックスの作品では、ヴィオラ・ダ・ガンバ族の珍しい楽器バリトンのオブリガート付で、懺悔する罪びとの神へと向けたアリアの雰囲気を作り出しています。コルティ率いるイル・ポモ・ドーロのメンバーも信じられないくらい豪華で、まず一部しか登場しない合唱は、ラ・コンパーニャ・デル・マドリガーレを主宰するイタリア古楽界の名歌手ジュゼッペ・マレットや、イタリアのさまざまなアンサンブルで歌い、指揮するマルコ・スカヴァッツァなどの実力派歌手まで参加。やはり一部のみの登場となるトランペットは、イタリア古楽界が誇るナチュラル・トランペットの名手ガブリエーレ・カッソーネ。スペインの名手ミゲル・リンコン、コルティのチェンバロらによる通奏低音も超雄弁!豪華なオーケストラと合唱をバックに堂々と歌うオルリンスキの美声とテクニックも聴きものです。選曲こそマニアックとまで言えるものながら、これほどまでに、18世紀の宗教音楽を魅力的に聴かせるアルバムも稀有だと言えるでしょう。オルリンスキの魅力、コルティ率いるイル・ポモ・ドーロの魅力、18世紀の宗教音楽の魅力を堪能できる圧巻の一枚として強くオススメしたいアルバムです。

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