アーティスト特集~バンジャマン・アラール~『アンドレアス・バッハ写本』

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『アンドレアス・バッハ写本』

ディートリヒ・ブクステフーデ:シャコンヌ
J.S.バッハ:幻想曲 ハ短調 BWV1121
ヨハン・カスパル・フェルディナンド・フィッシャー:前奏曲とシャコンヌ
J.S.バッハ:幻想曲と模倣曲BWV563
クリスティアン・リッター氏の組曲 嬰ヘ短調
カルロ・フランチェスコ・ポッラローロ:ポラリーリ氏のカプリッチョ
マラン・マレの作曲によるオペラ「アルシード」組曲より
ヨハン・アダム・ラインケン:ジャン・アダモ・ラインケン氏のバレ(10の変奏)
J.S.バッハ:トッカータ ハ短調 BWV911

【演奏】
バンジャマン・アラール(チェンバロ、オルガン)

録音:2005年10月

HORTUS HORTUS045 
輸入盤 

 少年バッハは、長兄ヨハン・クリストフの秘蔵する鍵盤音楽の楽譜をこっそり拝借し、月明かりの下、それをこっそり筆写していました。しかしやがて長兄にばれてせっかく筆写した楽譜をすべて取り上げられてしまいました。。バッハの死後に編纂された『故人略伝』によるこのエピソードは今でも語られることのものです。このエピソードが真実なのかどうかはさておくとして、当時のバッハの保護者であった長兄ヨハン・クリストフは、少年バッハの音楽的才能を見出していたといいます。その証拠に、若きバッハが作曲した作品を彼は収集・保存していたのです。それらの作品は、「アンドレアス・バッハ写本」「メラー手稿譜」と呼ばれる写本の中に収められ現代に伝わっているのです。これらには若きバッハの作品だけでなく、バッハが学んだり、影響を受けたりした作品も数多く収録されています。このアルバムは「アンドレアス・バッハ写本」収録の作品から、ブクステフーデの「チャコーナ(シャコンヌ)」をはじめ、フィッシャー、リッター、ポッラローロ、ラインケンらの鍵盤音楽の他、マラン・マレの「アルシード」組曲抜粋のオルガン編曲版まで多様な音楽がセレクトされています。バッハはこれほどまでに多種多様な音楽を演奏し、研究していたのです。同時に収録されているバッハ自身の作品はそうした音楽の影響を感じさせながらも、自らの音楽性を作り上げていこうという若きバッハの野心や意欲が感じられるものとなっています。
 こういうある意味、かなりコアなバッハ・アルバムを録音当時(2005年)弱冠二十歳の鍵盤奏者であったアラールが録音するとはいったいどういう経緯があったのでしょうか。若きバッハに自分自身を投影していたのかもしれませんが、ここで聴くことのできるオルガン、チェンバロを巧みに操るアラールの演奏は、駆け出しの若者の演奏では全くありません。先人たちとバッハとのつながりを明確に意識したプログラム、その影響を感じさせながらバッハの音楽の独自性を聴かせる説得力抜群の解釈、オルガンでのストップの選択からチェンバロでの演奏の間まで、まるで熟練の名手の演奏を聴くかのような深みが感じられるのです。しかも老成した雰囲気もなく、フレッシュで生き生きとした演奏になっているのもすごい!特に、アルバムの最終曲、チェンバロで弾かれることが多いバッハの「トッカータBWV911」は、オルガンで演奏されているのですが、その壮大なスケールと、音響空間を的確にとらえた絶妙の間は圧巻です。若きバッハの音楽の源泉を知り、現代の若き天才を知る最高の一枚。この時点で輝かしい未来は約束されていたのです。

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