必聴傾聴盤紹介~『J.S.バッハ:6つのモテット/リゼット・カントン指揮オタワ・バッハ合唱団』

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『J.S.バッハ:6つのモテット/ リゼット・カントン指揮オタワ・バッハ合唱団』

リゼット・カントン指揮オタワ・バッハ合唱団
録音:2021年10月16-17、23-24日 カナダ、オタワ、洗礼者聖ヨハネ教会
ATMA ACD2-2286 輸入盤

収録情報

J.S.バッハ:6つのモテット BWV225-230

歌え、主に向かい新しい歌を BWV225
イエス、わが喜びよ BWV227
御霊は我らの弱さを支え助け給う BWV226
来たれ、イエスよ、来たれ BWV229
恐れるな、私はあなたと共にいる BWV228
主を讃えよ、すべての異邦人よ BWV230

リゼット・カントン(指揮)
オタワ・バッハ合唱団

 カナダのリーディング・クラシカル・レーベルATMAからバッハのモテット集がリリースされます。歌唱は、2002年に古楽のスペシャリストとしてカナダを中心に活躍するリゼット・カントンが2002年に結成したオタワ・バッハ合唱団。オタワ・バッハ合唱団は、カナダが生んだ世界的カウンターテナー、ダニエル・テイラーや、カナダの優れたピリオド楽器アンサンブル、アンサンブル・カプリースと共演するなど、カナダを代表する合唱団で、2020年にはカナダのグラミー賞に相当するJUNO AWARDを受賞し、2005年から2022年の間に5度にわたるヨーロッパ・ツアーを成功させるなど、カナダ国内外で高く評価されています。
 この2021年に録音されたバッハの6つのモテットでは、ソプラノ5、アルト5(カウンターテナー1を含む)、テノール4,バス4の編成で、通奏低音としてチェロ、コントラバス、オルガン、曲によって、チェンバロとテオルボが加わります。ピッチはa=415の一般的なバロック・ピッチで調律はヴァロッティが選択されています。
 バッハのモテットは、四大宗教曲やカンタータと比べると、独立した器楽合奏が付かないこともあってか、比較的地味な存在かもしれません。しかし4声から8声までの編成の合唱の中での対位法の見事な書法には驚異的なものがあり、その意味でもバッハの教会音楽の常用な作品群と言えるでしょう。4声×2の二重合唱を巧みに組み合わせたBWV225、1つのコラールを変奏させるという創意工夫がなされた表出力の強いBWV227と、他のバッハの傑作と比肩する充実した内容の作品も含まれています。
 こうしたすばらしい作品群ゆえ、世界の実力派合唱団、優れた指揮者が数多く録音しており、バッハ録音史に残るようなすばらしい録音もいくつもありますので、もうご自分の中の決定盤を決められている方も多いかもしれません。ですが、そうした名盤揃いの同曲にあっても、オタワ・バッハ合唱団による録音は、じっくり聴くに値するすばらしい内容となっています。1曲目のBWV225の第1楽章はかなり速めのテンポで歌われますが、歌手一人一人の実力が高いのでアンサンブルの乱れもなく、颯爽と進みます。対照的に第2楽章は、部分的に重唱へと編成が絞られ、時に豊かな装飾を加えてゆったりと歌われます。旋律と和声の美しさを存分に聴かせてくれるのです。随所で奏でられるテオルボも色彩を添えています。そして第3楽章はまた高速!ここでも歌手たちの高い歌唱技術が発揮され、メリスマが軽やかに流麗に歌われます。アーティキュレーションも統一されているので、指揮者の統率力の高さが伺えます。続くBWV227では、ドイツ語の発音のアクセントを生かし、テキストを明確にさせながら、そのテキストを的確に表現するバッハの音楽を浮き彫りにします。各声部の決然としたフーガの入り、ホモフォニックな部分の迫力、対比の強いアーティキュレーションなど、実に聴かせます。この曲では、チェンバロとテオルボは加えられていないのですが、その選択も納得できるものです。このBWV227の歌唱は、数ある名盤と比肩するものと言っても過言ではないでしょう。続く4曲の出来もすばらしく、テキストを伝えようという意識が高いからか、カナダのグループながら、ドイツ語の発音も的確で、解釈も説得力があります。バッハが工夫を凝らした音楽に安心して浸ることができるのです。
 カナダは南北アメリカ大陸の国々の中では比較的早くから古楽が盛んで、ターフェルムジーク・バロック管弦楽団をはじめとする世界的ピリオド楽器オーケストラも出ていますが、よもや古楽の合唱において、カナダからこれほど質の高いバッハのモテット録音が出てくるとは驚きです。熱心なバッハ・ファンの方々にこそ、ぜひ隅から隅までじっくりと何度も聴いていただきたいアルバムです。(須田)
 

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