必聴傾聴盤紹介~『岩陰のうなぎ~クープラン、マレ、ラモー:ヴィオール二重奏曲集/レ・ヴォワ・ユメーヌ』

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『岩陰のうなぎ~クープラン、マレ、ラモー:ヴィオール二重奏曲集/レ・ヴォワ・ユメーヌ』

レ・ヴォワ・ユメーヌ(ヴィオール二重奏)
〔スージー・ナッパー&メリザンド・コリヴォー〕

トマ・アユティ(声)
録音:2021年5月4-6日 カナダ、ケベックミラベル、サントーガスタン教会
ATMA ACD2-2258 輸入盤

収録情報

[FANTAISIES VOLANTES 飛翔する幻想]
マレ(1656-1728):羽根つき遊び(ヴィオール曲集第5巻)*
F.クープラン(1668-1733):2つのヴィオールのためのコンセール第13番より 第1、2楽章(『趣味の融合』)
マレ:エコー・ファンタジア(ヴィオール曲集第1巻)
F.クープラン:2つのヴィオールのためのコンセール第13番より 第3楽章(『趣味の融合』)
マレ:庭園の高台(ヴィオール曲集第5巻)* / シャコンヌ ト長調(ヴィオール曲集第1巻)

[LA MUSETTE DU ROI DE PERSE ペルシャ王のミュゼット]
ラモー(1683-1764):ラ・クリカン(コンセールによるクラヴサン曲集)*
F.クープラン:2つのヴィオールのためのコンセール第12番より 第1、2楽章(『趣味の融合』)
ラモー:ラ・リヴリー(コンセールによるクラヴサン曲集)*
F.クープラン:2つのヴィオールのためのコンセール第12番より 第3、4楽章(『趣味の融合』) / 第15オルドル(クラヴサン組曲第4巻)より「ショワジーのミュゼット」「タヴェルニーのミュゼット」

[ANGUILLE SOUS ROCHE 岩陰のうなぎ]
F.クープラン:第22オルドル(クラヴサン組曲第4巻)より「戦利品」「戦利品の続きのエール」
マレ:人間の声(ヴィオール曲集第2巻)
F.クープラン:第22オルドル(クラヴサン組曲第4巻)より「夜明け」「うなぎ」

*レ・ヴォワ・ユメーヌ編曲版

 カナダのリーディング・クラシカル・レーベルATMAで、看板アーティストとなっているヴィオール・デュオ、レ・ヴォワ・ユメーヌによる変わったタイトルを持つヴィオール・デュオ・アルバム。タイトルの「Anguille sous Roche」は、直訳すれば、「岩陰のうなぎ」「岩の下のうなぎ」となり、うなぎは陰に隠れていても臭いで分かるということから、「見えないけれど、なにか匂う」となり、「匂うなあ」「なにか(裏が)ありそう」のような意味で古くから使われているそうです。そんなことから、CDジャケットとブックレットにも、16世紀の動物図鑑に掲載されたうなぎのイラストが使用されています。そうした、どこか意味ありげなタイトルを持つヴィオール曲を主に集めた風変わりな選曲のアルバムとなっています。
 曲目は、マラン・マレのヴィオール曲集、フランソワ・クープランの2つのヴィオールのための曲集、クラヴサン作品集、ラモーのコンセールによるクラヴサン曲集から選ばれていて、2つのヴィオールのためのオリジナル作品以外は、レ・ヴォワ・ユメーヌが編曲した版での演奏となっています。
 レ・ヴォワ・ユメーヌは「人間の声」の意味で、このアルバムにも収録されているマラン・マレの作品に基づいています。優れた技巧を持つカナダの二人のヴィオール奏者によるレ・ヴォワ・ユメーヌは、デュオとしていくつものアルバムをリリースするベテラン・デュオ。いつも興味深い内容のアルバムをリリースしていますが、今回のアルバムはこれまで以上に凝った内容となっています。
 このアルバムは、3部構成になっており、それぞれ「飛翔する幻想」「ペルシャの王様のミュゼット」「岩陰のうなぎ」というタイトルが付けられ、小説の章仕立てのようになっています。章が始まる前には、そのタイトルがフランス語で語られています。凝った選曲に加え、雰囲気作りにも力が注がれています。また編曲も一方を旋律にもう一方を通奏低音にという単純な編曲にせず、まるで掛け合いするかのように、緻密な構成に仕立て上げられています。例えば、1曲目の「羽根つき遊び」(CDジャケットに絵画資料が掲載されていますが、バドミントンのような貴族の遊び)では、シャトルを打ち合うような掛け合いが聴かれ、続くクープランの「趣味の融合」の中の2つのヴィオールのための作品を挟んで、こだまの掛け合いのようなマレの「エコー・ファンタジー」までを含めてその打ち合いは続きます。貴族の優雅な遊びが表現されているようです。そして「庭園の高台」、ト長調の「シャコンヌ」と続くプログラムは、なにやら思わせぶりです。第2部「ペルシャの王のミュゼット」は、勇猛な王として名を馳せた18世紀のペルシャの王様「ナーディル・シャー」のフランスでの名前が冠された「ラ・クリカン」からはじまり、当時の文化を支えたパトロンだったリヴリー伯爵の死を悼んだ哀歌として作曲された「ラ・リヴリー」、ショワジー、タヴェルニーといったフランスの町の名前が付いたミュゼットと、当時の社会を表すような構成になっています。第3部「岩陰のうなぎ」は、マレの「人間の声」をはさんで、クープランのクラヴンサン作品(第22オルドル)の「戦利品(トロフィー)」「夜明け」「うなぎ」が奏でられます。
 こうした表題の付いた当時のフランス音楽はロココ芸術の特徴を持っているようです。18世紀フランスのロココ芸術の絵画は、優美な主題が選ばれていますが、どこか思わせぶりな画風が特徴となっています。たとえば、ヴァトーの「シテール島の巡礼」やフラゴナールの「ぶらんこ」など、ただ優美なだけの絵画ではなく、そこにはさまざまな意味が読み取れるのです。このようにロココの絵画には、描かれている主題に隠された意味があることがほとんどですが、ここに収録された表題付きのフランス・バロック音楽もその表題や音楽そのものにも実は隠された意味や暗喩があるのだと思います。タイトルと音楽からそうした裏の意味を探るという知的な遊戯をすることが、このアルバムを最も楽しむための方法かもしれません。CDブックレットにも、美しい「庭園の高台」で、「羽根つき遊び」する男女のゲームの勝者に「戦利品」が与えられ、「サラバンド」や「シャコンヌ」といったダンスを踊る姿や、「勇猛なペルシャの王様」(ラ・クリカン)、音楽のパトロンの死(ラ・リヴリー)、夜明けの日の光を避け、岩陰に隠れるうなぎ(「夜明け」「うなぎ」)の様子など、「ルイス・キャロルの物語」を読むように、このアルバムを楽しんでほしいと記されています。もちろん、演奏は抜群にすばらしいので、フランスのヴィオール音楽を堪能するという意味でもオススメできる名盤です。奥深いフランス・バロック音楽の世界を堪能できるすてきな1枚です。

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