必聴傾聴盤紹介~『パーセル:「ダイドーとイニーアス」/デイヴィッド・ベイツ&ラ・ヌオヴァ・ムジカ』

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『ヘンリー・パーセル:「ダイドーとイニーアス(ディドーとエネアス)」』

デイヴィッド・ベイツ指揮ラ・ヌオヴァ・ムジカ
録音:2022年11月16-18日 ハムステッド・ガーデン・サバーブ、セント・ジュード教会(ロンドン
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PENTATONE PTC5187032 輸入盤

収録情報

『パーセル:歌劇『ダイドーとイニーアス』 Z.626』

ダイドー:フルア・バロン(メゾ・ソプラノ)
イニーアス:マシュー・ブルック(バス・バリトン)
ベリンダ:ジュリア・セメンツァート(ソプラノ)
ソーサラー(魔女の親玉):エイヴリー・アムロー(アルト)
女2:ヒラリー・クローニン(ソプラノ)
水夫:ニッキー・スペンス(テノール)
精霊:ティム・ミード(カウンターテナー)
魔女1:ヘレン・チャールトン(メゾ・ソプラノ)
魔女2:マーサ・マクローリン(メゾ・ソプラノ)
デイヴィッド・ベイツ(指揮、オルガン)、ラ・ヌオヴァ・ムジカ
録音:2022年11月16~18日/ハムステッド・ガーデン・サバーブ、セント・ジュード教会(ロンドン)

★グルックの『オルフェオとエウリディーチェ』(PTC-5186805)やヘンデルの楽器オブリガート付きのアリアを集めた『オペラ・アリア集』(PTC-5186892)など注目の録音をPENTATONE レーベルで行うデイヴィッド・ベイツ率いるイギリスの気鋭の古楽グループ、ラ・ヌオヴァ・ムジカによるヘンリー・パーセル(1659-1695)の『ダイドーとイニーアス(ディドーとエネアス)』が登場です。
★バロック・オペラを代表する作品の一つであるだけでなく、英語による最も有名なオペラとも言えるパーセルの『ダイドーとイニーアス』。全編が歌われる完全なオペラとしてはパーセルが残した唯一の作品で、古代ローマの詩人ウェルギリウスの叙事詩「アエネーイス」のひとつのエピソードである英雄アイネイアースとカルタゴの女王ディードーの悲恋を原作として、パーセルと同時代の人気劇作家ネイハム・テイトが台本を書いた作品です。
★ダイドーを歌うのはイギリス人の父とシンガポール人の母のもと、北アイルランドに生まれた、フルア・バロン。欧米各国の劇場で引く手あまたの注目のメゾ・ソプラノです。イニーアスを歌うマシュー・ブルックは現在世界で最も活躍するバス・バリトン歌手の一人であり、バロック音楽のソリストとしても定評があります。タイトルロールの二人以上に美しい持ち歌が割り振られているダイドーの侍女ベリンダには、バロックから古典派作品を得意とするイタリア人ソプラノ、ジュリア・セメンツァートを起用。これまでにも名歌手が歌ってきた美しいアリアのあるベリンダを若き実力派がどのように歌うかにも注目です。典型的なヴィランながら物語の黒幕である魔女たちの親玉であるソーサラーはエイヴリー・アムロー、出番は短いながらストーリーに強烈な印象を残す精霊にはこのグループと共演の多いカウンターテナー、ティム・ミードなど、全歌手に実力派を配した豪華なキャストとなっています。またオーケストラは弦楽器4-4-2-4でコントラバスなし、通奏低音には、テオルボ、ギター、ハープと撥弦楽器が多く配置され、チェンバロとオルガンも各2 台用いられています。ここに打楽器奏者も二人、オーボエ&リコーダー奏者が加わり、合唱団も14 人と、ピリオド楽器によるこの作品の演奏としてはかなり大規模な編成となっています。オーケストラには、古楽ファンにはお馴染みのイギリスのベテラン、ヴィオラ奏者ジェーン・ロジャーズも参加しています。
★この大きな編成で、音楽と物語のコントラストを重要視したという指揮者のベイツは、1 時間ほどの短いオペラをスピーディに、一気呵成に聴かせてくれることでしょう。劇音楽を得意とするグループだけに期待が高まる録音です。
キングインターナショナル

 バロックから古典派にかけてのの劇場音楽やオラトリオなど劇的な宗教音楽を主なレパートリーとするデイヴィッド・ベイツ率いるイギリスのピリオド楽器アンサンブル、ラ・ヌオヴァ・ムジカがパーセルの「ダイドーとイニーアス」を録音しました。彼らが得意とする母国の劇音楽ですので、発売前から大きな期待が寄せられていた録音でしたが、結果的にその期待を大きく上回るすばらしい演奏でした。
 パーセル唯一の完全なオペラであり、英語のオペラ作品としては最も有名と言っても過言ではない作品である「ダイドーとイニーアス」。ウェルギリスの叙事詩「アエネーイス」の中のカルタゴの女王ディドーの悲恋とその死を題材としながらも、物語の設定などの変更を行い、ローマ時代の物語からファンタジックな物語へと仕立て直した当時の人気劇作家ネイハム・テイトの見事な台本と、劇音楽作曲家としての才能をいかんなく発揮したパーセルの比類なき音楽が一体となったすばらしいオペラです。長大な作品が多いバロック・オペラの中でも上演時間約1時間と短めで、聴きやすく、バロック・オペラを聴く最初の作品としても最適な作品だと思います。
 デイヴィッド・ベイツは、音楽と物語のコントラストを重視しているとブックレットで語るだけあって、演劇的な解釈を取り入れ、より劇的な音楽づくりをしています。弦楽器が4-4-2-4(コントラバスはなし)、通奏低音は、各2台のチェンバロとオルガンに、テオルボ、ギター、ハープ。そしてオーボエ&リコーダー、打楽器も加わり、合唱団も14人と、比較的コンパクトな編成での演奏が多いこの作品では異例の大規模な編成となっていて、これもベイツのダイナミックな解釈を盛り立てます。コントラストの大きな解釈に必要だからこそ、こうした大編成なのでしょう。
 まず、序曲からしてかなり壮大です。序曲の一部を繰り返すことで物語の始まりをより荘重にスタートさせ、急テンポな音楽へ移行する部分では焦燥感を誘う疾走感を生み出し、この後始まる物語のドラマ性を拡大しています。
 威厳あるダイドーを演じるフルア・バロン、英雄ながらダイドーとの別れの悲しみと旅立ちへの躊躇をにじませる人間味あるイニーアスを歌うマシュー・ブルック、主人であり友人でもあるダイドーの心情に寄り添う歌を表情豊かに歌うベリンダを見事に演じるジュリア・セメンツァート、ファンタジー小説やアニメのヴィランのように誇張された魅力あふれる魔女の親分を描き出すエイヴリー・アムロー、そして、たった一場面の登場ながら、強いインパクトを残す精霊を異界的な、人知を超えた存在として歌い上げるティム・ミード、他、端役に至るまで、圧倒的な存在感を示す独唱陣のすばらしさは脱帽ものです。
 また部分部分で即興的な要素を挟み込む器楽陣の優秀さも特筆すべき点で、表情豊かな歌手たちの歌を一層色鮮やかにしています。そして、出番は多くないものの合唱団の優秀さも強く印象に残ります。特に最終曲の合唱の悲哀ある美しさは聴きものです。
 「ダイドーとイニーアス」はオペラではありますが、歌手の独唱アリア、掛け合いのレチタティーヴォ、合唱、器楽合奏と、あらゆるジャンルの音楽が詰め込まれており、パーセルのさまざまなジャンルにおける天才性を知るに格好の作品です。そしてなんといっても散りばめられた旋律のすばらしさは、天性のメロディ・メーカーであるパーセルならでは。デイヴィッド・ベイツ指揮によるすばらしい演奏で、ぜひパーセルの魅力にどっぷり浸ってください。(須田)

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