アーティスト特集~バンジャマン・アラール~『J.S.バッハ:鍵盤作品全集Vol.2~北へ』

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『J.S.バッハ:鍵盤作品全集Vol.2~北へ』

[CD1]リューベック
1. ブクステフーデ:「今ぞ喜べ、愛するキリストのともがらよ」 BuxWV 210
2. J.S.バッハ:「主キリスト、神のひとり子よ」BWV Anh.55
3. J.S.バッハ:「輝く曙の明星のいと美わしきかな」BWV 739
4.パッヘルベル:フーガ ロ短調
5. J.S.バッハ:コラール「ああ主よ、哀れなる罪人われを」BWV 742
6. J.S.バッハ:フーガ ロ短調(コレッリの主題による)BWV 579
7. J.S.バッハ:コラール「キリストは死の縄目につながれたり」 BWV 718
8. J.S.バッハ:フーガ ト長調 BWV 577
9. J.S.バッハ:パルティータ「おお神よ、汝義なる神よ」BWV 767
10. J.S.バッハ:プレリュードとフーガ ホ長調 BWV 566

バンジャマン・アラール(オルガン/Freytag-Tricoteaux (2001) d’après Arp Schnitger, église Saint-Vaast de Béthune)
録音:2018年5,10&11月

harmonia mundi KKC6221(4CD) 
輸入盤国内仕様

 アラールによる画期的なバッハの鍵盤作品全集の第2弾は「北へ」の副題が付けられています。なぜ「北へ」なのでしょうか。その理由は以下のようなものです。バッハが20歳のころ、休暇で訪れた北ドイツ、リューベックにおいて、当地のオルガニスト、音楽監督であったブクステフーデの主宰する「夕べの音楽」という公開演奏会にすっかり魅了され、4週間の予定だった休暇を勝手に延長し、結局3か月以上も当地に滞在してしまったといいます。「北へ」とは、この若きバッハに多大な影響を与えた北方への旅を指した言葉なのです。このアルバムには、バッハが強く魅了されたブクステフーデをはじめ、パッヘルベルやラインケンといった現在「北ドイツ楽派」と呼ばれる作曲家の作品をバッハの音楽とともに収録し、それらのバッハへの影響を探る内容となっています。例えば、「リューベック」と題されたCD1の冒頭には、ブクステフーデの長大なコラール幻想曲が配置されていますが、そのすぐ後にバッハのコラールが置かれています。またその後にはパッヘルベルのフーガを置き、バッハのフーガ作品を併置させています。こういう曲配置にすることで、先般作曲家たちの作品のバッハへの直接的な影響を聴き手に分かりやすく感じさせてくれるのです。「ハンブルク」と題されたCD2では、パッヘルベル並びにラインケンとの対比が示されています。「我を憐れみたまえ」と題されたCD3には、バッハのオルガン・コラールを収録。時にコラール旋律を歌うソプラノ歌手をまじえながら、クラヴィオルガヌム(オルガンとチェンバロが合体したような鍵盤楽器)を用いて、北方からの影響を経たバッハのコラール音楽の深みを堪能することができます。そして「旅行者(または、さすらう人)」と題されたCD4では、やはりクラヴィオルガヌムを使用し、ブクステフーデ、パッヘルベルの小曲を挟みながら、バッハが独自性を打ち出し始めた「トッカータ」などを収録しています。アラールは、チェンバロ、オルガン、クラヴィオルガヌムの3種の楽器を完璧に操り、見事な構成を見せるプログラムをより引き立てるすばらしい演奏を聴かせてくれます。特にクラヴィオルガヌムの演奏での、チェンバロとオルガンの音色の融合があまりにもうますぎて驚かされます。これこそセンスというものでしょう。全編通して聴くことで、ブクステフーデら北の音楽家たちのバッハへの影響力と、その影響を自身の音楽の独自性へと昇華していった若きバッハの創意工夫や野心を感じさせてくれる録音となっています。バッハの若き日への理解が大いに進む画期的なアルバムと言って過言ではないでしょう。

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